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膀胱・腎臓がん手術 なぜ都道府県格差が激しいのか?

膀胱がんと腎臓がんの都道府県別手術件数
膀胱がんと腎臓がんの都道府県別手術件数(C)日刊ゲンダイ

 膀胱がん・腎臓がんの手術の都道府県格差を見るために、人口10万人当たりの手術実施件数を<表>にまとめました。他のがんの手術以上に格差が大きいことが分かります。

 まず膀胱がん。膀胱の摘出術と、尿路から内視鏡を挿入して内側からがんをそぎ取るTURBTに分かれますが、特に摘出術における格差が目立ちます。トップの愛媛県が6.0件に達しているのに対し、最下位の山梨県、徳島県、高知県はゼロ。つまりこの3県の病院では、2014年度において膀胱がんの摘出術が全く行われなかったということです。摘出術の対象となる患者は全員、他県の病院に流れたのでしょう。

 TURBTは摘出術と比べて手技が簡単で、短時間で終了します。そのためでしょうか、実施件数の格差はさほど大きくありません。トップの香川県と46位の青森県の差は2倍ほどにとどまっています。ただ、沖縄県だけが飛び抜けて少ない数字になっています。摘出術も37位(1.8件)と少なめですから、そもそも患者が少ないのかもしれません。

 腎臓がんは、がんに侵された側の全摘が基本で、開腹術と腹腔鏡によるものに分かれます。がんが周辺の組織やリンパ節に浸潤・転移している場合は、切除範囲が広く手技も複雑になるため、開腹術が選択されます。しかし、悪い腎臓を切除するだけなら、傷口が小さく回復が早い腹腔鏡が好まれます。

 開腹術では山形県が14.2件で大差の1位。ところが腹腔鏡では最下位です。山形県では腹腔鏡手術ができる医師・病院がかなり不足しているのでしょう。同じように開腹術で2位の新潟県は、腹腔鏡手術では42位。開腹術3位の栃木県は腹腔鏡手術で45位。一方、腹腔鏡1位の鳥取県は開腹術では41位。2位の大分県は開腹術では45位。開腹術で最下位の宮崎県は腹腔鏡では11位に入っています。

 つまり、開腹術と腹腔鏡手術の件数はトレードオフの関係にあるのです。開腹術の多い県ほど、腹腔鏡手術が苦手という傾向がはっきりと見て取れますし、腹腔鏡を多く行っている県は開腹術が少なめになっています。

 腎臓がんの手術を受ける際には、腹腔鏡でも可能か、自分の県は腹腔鏡が得意かなどを調べておくべきです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。