高齢者に多い不定愁訴 「頭鳴り」にはどう対処するべきか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「耳鳴り」ならぬ「頭鳴り」という症状に苦しむ人が増えているという。頭の中を雑音が鳴り響いているように感じるため、患者本人しか理解できず、治療しづらい。医師から「気にしないように」と言われて疎外感を持つ患者も多いという。そもそも、頭鳴りは医師のなかでも知る人の少ない症状で研究も進んでいない。どんなものなのか? 埼玉医科大学客員教授で、「川越耳科学クリニック」(埼玉県川越市)の坂田英明院長に聞いた。

「体の内外にハッキリした音源がないにもかかわらず、耳の中でなんらかの音を感じる症状が耳鳴りです。頭鳴りはその頭バージョンで、患者さんは60歳以上の男性に多い。正確な患者数は不明ですが、日本の耳鳴りの患者数1300万~1500万人のうち2割程度が頭鳴り症状を持っていると考えています」

 頭鳴りの主な症状は頭全体に耐え難い雑音が響くこと。周りがうるさかったり、自分が何かに集中している間は気にならないが、寝る前や静かな部屋に移ったりすると、急にこうした雑音が気になりはじめるという。

「頭鳴りは一時的な場合と持続的な場合があり、持続的な場合は不眠になったり食欲不振になる人もいます。頭鳴りが起きると、頭全体あるいは片方が重く感じて、めまいや頭痛を伴うことがあります。頭鳴りを起こしやすいのは糖尿病や高血圧などのリスクがあるメタボな人、喫煙歴がある人、毛染めを使っている人、夜勤の人、ヘルペスが再活性化した人、騒音にさらされている人、難聴の人などです。また、脳の興奮を抑える薬を長期間使っている人も頭鳴りを起こしやすいことがわかっています」

 頭鳴りがなぜ発生するのかは完全には解明されていない。坂田院長は「慢性的な耳鳴り」「脳の虚血」「めまい」「頭痛」が関係しているのではないか、という。

「耳鳴りは空気の振動を電気信号に変える過程での異常によって起こります。その乱れた電気信号により、側頭葉などの脳に慢性的に異常が起こって頭鳴りが起こるという考え方です。もうひとつは、ストレスや脳血管障害などにより脳が虚血状態となったことで脳が異常興奮したり、栄養不足になったりして起こるケースです。他にけいれん様発作があります。めまいを起こした人で眼運動に異常がある場合は、複数の薬を組み合わせて投与するカクテル療法を施すと頭鳴りがスッと消えた、という患者さんがいます。めまいの一部もまた頭鳴りが関与していると考えられるのです」

■薬を替えるだけで軽減することも

 原因がわからなければ治しようがないと思いがちだが、かつて日本の国民病だった「かっけ」の治療がそうであったように、先に治療法が発見された後に理論が確立することもある。頭鳴りはどう対処すればいいのか?

「耳鳴りですら治すのは難しいのですから頭鳴りを治すのは困難です。ただ、頭鳴りが起きやすい人や頭鳴りが治った人の行動がヒントになるかもしれません。具体的にはメタボを改善する、禁煙する、毛染めをやめる、ヘルペスを治療する、持病の薬を医師と相談して替えるなどです」

 実際、20年にわたり耳鳴りと頭鳴りに苦しめられてきた70代の男性は、生活習慣を改めたうえで時々感じていためまいの治療のためのカクテル療法を行ったところ、半年ほどして頭鳴りが治まったという。

「患者さんによっては持病の薬を替えただけで耳鳴り・頭鳴りが改善したケースもあります。ただし、治療をしてもすべての患者さんの症状が改善するわけではありません」

 高齢者の不定愁訴には日本の医学はほとんど目を向けてこなかった。今後、この手の研究と治療法の開発が進むことを期待したい。

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