がんと向き合い生きていく

がんの骨転移による下肢麻痺は発症から48時間以内が勝負

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 まだMRI検査ができなかった時代に、こんなことがありました。肺がんの治療で入院中だったBさん(68歳・男性)が、金曜日の午後に「下肢の動きがおかしい」と言い出し、土曜日の朝には歩けなくなってしまったのです。48時間が勝負ですから、月曜日までは待てません。外来診察で忙しい整形外科医に拝むように頼み込み、脊髄腔に造影剤を投与する検査を行って、がんによる圧迫のある場所を確定できました。

 土曜日の午後、放射線治療の準備をしながら、脊髄の圧迫を取り除く手術が夜中まで行われ、Bさんは元通りに歩けるようになりました。その時の喜びも忘れられません。

 かつては、肺がんで再発、あるいは骨転移での症状が出てきた時、多くの場合はがんの進行を抑える、痛みの症状を緩和するのが精いっぱいだったようにも思います。それが、手術によって麻痺を取り、歩くことができるまでの回復も望めるようになりました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。