医師の「様子見」が落とし穴 脂肪肝を甘く見てはいけない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「脂肪肝です。様子を見ましょう」と健診で言われたことはないだろうか? うのみにして大したことはないとタカをくくっていると、必ず泣きを見る。

 毎年健診を受けていたのになぜ――。

 横浜市立大学肝胆膵消化器病学教室主任教授の中島淳医師は、「肝硬変」と伝えた途端、愕然とした表情でそう口にする患者を何人も見てきたという。脂肪肝であることは知っていた。しかし、治療が必要だとは思ってもいなかった。なぜ、肝硬変に至るまで“放置”されたのか、と。

 脂肪肝は、肝臓に中性脂肪が蓄積された状態だ。飲酒が関係する「アルコール性肝炎」と、飲酒が関係しない「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD=ナッフルディー)」がある。どちらも治療をしなければ肝細胞は破壊と修復を繰り返して硬く小さくなり(線維化)、肝硬変に至る。そして、肝臓がんを発症する。

「NAFLDの中でも炎症を伴う『非アルコール性脂肪肝炎(NASH)』は、肝がんへの進行スピードが速い。吐血など突然の異変で救急搬送されてきた患者さんを診ると、すでに肝硬変、肝がんを発症していたというケースも珍しくない」

 ところが冒頭のように、脂肪肝の深刻さを患者に伝える医師は専門医以外では少数。また、伝えても患者は自覚症状がないので軽視しがちだ。

 さらに医師が深刻さを認識していても、線維化がどれくらい進んでいるかを調べるには肝臓に針を刺して調べる肝生検しかこれまでなく、専門医以外は必要かどうかの判断が困難だった。

「しかし、状況は変わりました。『フィブロスキャン』や『MRエラストグラフィー』という肝臓の硬さや肝臓の脂肪量を調べられる検査機器が登場し、保険適用で受けられる。線維化の速度を予測し、どれくらいのスパンで肝硬度や肝脂肪量をチェックしていけばいいのか、肝生検の必要性の有無を判断できます」

■糖尿病があればリスク2倍

 脂肪肝と診断されているなら、一度はこれら2つの検査のうちどちらかを肝臓の専門医のもとで受けるべき。中でも、より急を要するのは、糖尿病も患っている人だ。

 糖尿病があると脂肪肝のリスクが高くなることは、糖尿病を診ている医師なら理解している。ところが、脂肪肝と糖尿病が重なると肝硬変への進行スピードが速く、肝がんのリスクが糖尿病がない人の約2倍になることを強く意識してはいない。

 だから、糖尿病で定期的に医療機関を受診していて、かかりつけ医から何も言われていなくても、安心は禁物なのだ。

「特に、NASHの人は進行スピードが速いので要注意です」

 よくある勘違いを紹介する。

★肝機能の数値がそれほど高くないから、肝硬変の心配はない

「肝硬変であっても、GPT(ALT)は基準値を超えて驚くほど高くはならない。わずかに基準値を超えている程度でも、肝硬変のリスクを否定できません」

★痩せているから脂肪肝ではない

「NASHは肥満と関連付けて考えられがちですが、アジア人は痩せていても脂肪肝(NASH)の疑いがある。最新研究では20歳の体重と比較してどれくらい太ったかが問題とされています」

★初めて脂肪肝と診断された。フィブロスキャンなどを受ける段階ではまだない

「毎年健診を受けているならまだしも、長年受けていない人では、気が付かなかっただけかもしれません」

 肝がんは、がん死因5位。回避できるチャンスを逃してはいけない。

■治療

「食事の見直しと運動。体重3%減で肝脂肪が落ち、5%減で炎症が鎮まり、7%減でNASHが改善され、10%減で線維化改善といわれています。糖尿病がある人はその治療も必須。脂肪肝の薬は現在ありませんが、米国で治験が行われており、数年先には日本でも使われるようになるでしょう」(中島主任教授)

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