評判の昼ドラ「やすらぎの郷」が放送中の最中の訃報に驚いた人も多いでしょう。肺腺がんで亡くなった野際陽子さんは享年81。撮影陣は復帰を待っていたといいますから、なおさらでしょう。
娘で女優の真瀬樹里さん(42)のフェイスブックによると、がんが見つかったのは「3年前」。その後、「2度の手術、抗がん剤治療と、仕事をしながらの壮絶な3年の闘病」だったそうです。そうすると、1度目の手術は78歳のとき。
肺がんは男女とも罹患数3位。そのうちの6割を占めるのが、肺の末梢にできる肺腺がんです。肺がんの主流で、たばこを吸わない人と女性に多いのが特徴。そのため最近は“たばこと関係が薄い肺がん”と誤解する方がいるようですが、無関係ではありません。
ひとつは、受動喫煙の影響です。たばこを吸わない妻が1箱以上吸う夫と同居していると、ノンスモーカーの夫との同居のケースと比べて、肺腺がんの発症リスクは2倍になります。
もうひとつ、たばこの影響が強いCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の軽症の人は、肺腺がんになりやすいのです。
野際さんは過去にたばこを吸っていたという報道もありますから、その影響は否定できません。皆さんが気になるのは、治療法でしょう。
胸腔鏡手術は、メスで開胸することなく手術できるので、体の負担が軽く、がんを十分に切除できるケースなら高齢でも胸腔鏡手術が行われることは少なくありません。野際さんがそうだとは限りませんが、常に第一線の舞台に立ち続けていたことから考えると、その可能性は高い。
それでもがんは進行したのでしょう。2度目の手術が行われています。いくら肉体的な負担が少なくても、切除に伴う呼吸機能の低下は避けられません。2度目の手術後は、呼吸のつらさから、酸素吸入器を携行していたという週刊誌報道も見られます。
そして抗がん剤。野際さんのがんのタイプに適した分子標的薬が選ばれたのでしょうが、そういう治療を受け入れたということから、がんは少しずつ進行していたと思われます。
一連の報道や仕事ぶりから振り返ると、野際さんは治療選択の基準に仕事との折り合いを重視されていたのではないでしょうか。
早期の肺がんは、放射線で手術と同等の効果が得られます。照射はわずか4回。肉体的な負担は手術より軽く、手術のような呼吸機能の低下はほとんどありません。
日本のがん治療は手術偏重で、米国で6割を占める放射線治療が3割と少ない。概して最初の診断が外科医のことが多いため、手術が勧められやすいのです。では、どうするか。セカンドオピニオンは放射線科医に求めること。別の病院の外科医ではよくありません。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁