明細書が語る日本の医療

男性の主要がん 肝・膵・肺は手術割合が低く発見時は末期も

男性主要臓器がんの患者数(12年度)、死亡数(15年度)、手術件数(14年度)
男性主要臓器がんの患者数(12年度)、死亡数(15年度)、手術件数(14年度)/(C)日刊ゲンダイ

 今回の連載では、全国のレセプトデータを集計したNDBオープンデータと、それに関連するいくつかのデータを使って、さまざまながんの手術の実態について明らかにしてきました。

 連載を終了するにあたって、今日と明日の2日間で、今ままでの数字の総まとめをしたいと思います。表は男性の主要臓器がんの患者数、死亡数、手術件数を集計したものです。数字の年度が多少異なっていますが、それぞれ入手できる最新の数字なのでご容赦ください。

 新規患者数を2種類載せました。上段は上皮内がんを除いた(浸潤がん)数字、下段は上皮内がんを含んだ数字です。肺や大腸など、上皮内がんが少ない臓器の数字は公表されています。しかし、上皮内がんが多いといわれる胃や前立腺の数字は明かされていません。最近では「上皮内がんはがんではない」というのが国際的な見解になりつつありますが、日本では当たり前のように切除し続けています。数字を公表すると何か不都合があるのかもしれません。

 その問題はさておき、胃がん・大腸がんでは、開腹・腹腔鏡による切除手術が積極的に行われています。特に大腸がんは、新規患者の大半が手術を受けている計算になります。しかし、膵臓がんと肝臓がんでは、手術を受けるのは新規患者の半分にも満たないことが分かります。膵臓がんはかなり進行してから見つかることが多く、手術できたとしても5年生存率がかなり低いのが実情です。

 一方、肝臓がんにはマイクロ波凝固療法など、切除術よりもマイルドな治療法があります。がんがある程度小さければ、こちらの方が安全で効果的です。

 肺がんも手術割合が低いがんです。数字から、新規患者の3人に1人しか受けていないことが分かります。ステージⅢ以上で、実質的には大半の患者が手術対象外になってしまうということと、放射線や抗がん剤が比較的よく効くことが影響していると思われます。

 前立腺がんも手術はかなり少なめです。こちらはホルモン剤と放射線がよく効きます。また高齢者の前立腺がんは、おとなしいものが多く、むしろ放置しておいたほうがQOLを保ちやすいといわれています。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。