Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

乳がんで亡くなった小林麻央さんから学ぶ3つのこと

闘病生活をブログにつづっていた小林麻央さん
闘病生活をブログにつづっていた小林麻央さん(ブログから)

 乳がんで亡くなった小林麻央さん(享年34)のブログが改めて注目されています。その中には見逃せない内容があるのも事実。麻央さんの生きざまからぜひ学んでほしいことを紹介しましょう。

 特に大きいのが昨年9月4日「解放」に書かれた内容。〈あのとき、もうひとつ病院に行けばよかった。あのとき、信じなければよかった〉と誤診を示唆していることです。

 新聞や週刊誌などによると、2014年2月に人間ドックで左乳房の腫瘤が発覚したものの、医師に「授乳中のしこりで心配ない」と言われ、半年後の検査を提案されたといいます。乳がんの診断を受けたのは8カ月後で、脇のリンパ節にも転移していたようです。

 この連載で何度となく触れているように、がんは亡くなる直前までかなり元気に暮らすことができます。たとえば、愛川欽也さん(享年80)、菅原文太さん(享年81)がそうでした。がん治療医である私自身、がんで死にたいとさえ思っています。

 しかし、そのためには最初が肝心。乳がんが注目されたことで、マンモグラフィーを受ける女性が増えていますが、乳腺密度が高い女性がマンモを受けても、見落としのリスクがあります。麻央さんがそうだとはいいませんが、もしマンモだけで安心していたら、超音波検査もプラスするのがよいと思います。

 もし治療方針に迷ってセカンドオピニオンを求めるなら、同じ診療科の別の病院では無意味。放射線科を受診すること。すべてのがんの、すべての治療に精通しているのは放射線科だけです。

 もう一つは、介護の問題。一般に健康寿命は70歳で、残り10年は介護が必要とされます。そうなるのは脳卒中で半身麻痺になったり、認知症になったりした場合です。亡くなる直前まで仕事ができるがんなら、介護生活はごくわずか。介護地獄のようなことには、なりにくいのです。

 愛川欽也さんが息を引き取ったのは、人気番組を降板し、自宅で介護生活に入った直後だったとされています。自宅でのみとりが3つ目です。

 がん患者の晩年を追跡した研究で、病院と自宅を比較すると、寿命は変わりません。何が言いたいかというと、医療施設の充実ぶりは、寿命に関係がないのです。

 末期がんの治療は、痛みを取り除く緩和ケアが中心。よく使われるオピオイド(医療用麻薬)は点滴のほかに飲み薬、貼り薬、座薬などがあって、患者一人一人が症状に応じて薬の量を調整できます。在宅でも病院と変わらないケアが可能なのです。

 海老蔵さんによると、麻央さんは亡くなる1日前まで会話ができ、2人の子供が寄り添っていたといいます。一般にイメージされるような、苦しみながら迎えた最期ではありません。適切な緩和ケアを受けていれば、家族とかけがえのない時間を過ごすことができるのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。