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【早発閉経の不妊】卵巣に残る原始卵胞を活性化させる

聖マリアンナ医科大学病院生殖医療センターの河村和弘センター長(左は採取した卵巣組織)
聖マリアンナ医科大学病院生殖医療センターの河村和弘センター長(左は採取した卵巣組織)/(提供写真)
聖マリアンナ医科大学病院生殖医療センター(神奈川県川崎市)

 同センターは、不妊症に悩む夫婦に体外受精などの生殖補助技術を用いた治療を行う部門。産婦人科の生殖内分泌外来の医師が担当している。不妊症治療の中でも、同センターは「早発閉経」に対する「卵胞活性化療法」という最新療法を開発し、2012年12月に世界で初めて分娩に成功。米国・TIME誌の選ぶ「2013年10大メディカルブレイクスルー」のひとつに選定されている。

「早発閉経」とは、どんな病気なのか。同センターの河村和弘センター長(顔写真)が言う。

「通常、閉経は50歳前後で迎えますが、早発閉経は卵子の源である卵巣内の原始卵胞が急激に減少し、40歳未満で無月経となる疾患です。原因は、染色体・遺伝子の異常、自己免疫疾患、手術や放射線治療といった医原性など。女性の100人に1人が発症するといわれています」

 従来の早期閉経の不妊治療で、最も有効な治療法は他の若い女性から卵子を提供してもらい行う体外受精。しかし、国内では認められておらず、どうしても子供が欲しい人は海外(米国や東南アジアなど)で行うしかなかった。しかも、費用は数百万~1000万円近くかかる。そんな状況の中、河村センター長が米国スタンフォード大学と共同開発したのが、患者自身の卵子を使う卵胞活性化療法だ。

「通常、卵巣には数十万個の未熟な原始卵胞が存在し、月経のたびに数百個が活性化して発育します。しかし、活性化は原始卵胞が残り1000個くらいになると停止します。卵胞活性化療法は、早発閉経の患者さんの卵巣にわずかに残っている原始卵胞を、体外で人為的に活性化させるのです」

■卵巣移植を実施した70人中3人が出産

 具体的には、腹腔鏡手術で片側の卵巣または卵巣の一部を取り出し、原始卵胞を含む卵巣組織を特殊な薬を用いて2日間培養。それを再び腹腔鏡手術で卵管の近くに戻す。その後、ホルモン療法(内服)と排卵誘発剤の自己注射をし、成熟した卵子ができたら採卵を行い体外受精をする。卵胞活性化の効果は1~2年くらい持つという。

「原始卵胞が残っていれば、50~60%の患者さんで成熟した卵子がつくれます。ただし、妊娠率は患者さんの年齢によって大きく異なります。これまで活性化した卵胞を戻して1年くらい観察できた患者さんは70人で、うち妊娠したのは9人で分娩に成功したのは3人です」

 これまで報告されてきたホルモン療法による原始卵胞の成熟率は年間0・3%なので、その差は歴然だ。

 手術で摘出した卵巣の余った部分は、凍結保存しておけば再度治療に使える。2人目、3人目の子供が欲しい場合や、未婚で将来、子供が欲しい人なども卵巣を凍結保存しておけば、原始卵胞は半永久的に保存できるという。

「早発閉経は発症前に『生理不順』の前触れがあることが多いです。将来、妊娠を望む女性で生理不順があれば、医療機関で『抗ミュラー管ホルモン』を測定(採血)して、卵巣の状態を確かめることをお勧めします。原始卵胞は時間がたつほど減ってしまいます。早発閉経の疑いがあれば事前に卵巣や卵子を凍結保存する対策が取れます」

 卵胞活性化療法の費用は患者の状態などによって大きく違うので一概にいえないが、海外で卵子提供してもらうよりはるかに安いという。

■データ

(財)聖マリアンナ会東横病院を母体として1971年に創立された同大の病院。
◆生殖内分泌外来のスタッフ数=常勤医師7人
◆生殖内分泌外来の年間初診患者数=160~170人
◆卵胞活性化療法の実施数(2011年~)=約150件