「EGFR」と「遺伝子変異」に注目が 大腸がん治療最前線

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がんの罹患率トップが大腸がんだ。治療技術は進歩しており、「目を見張るものがある」と専門医は言う。静岡県立静岡がんセンター消化器内科の山崎健太郎医長に治療の最前線を聞いた。

 大腸がんは、がんによる死亡原因第2位。ステージ(病期)は0~Ⅳ期まであり、治療は内視鏡↓手術↓手術+抗がん剤と進む。肝臓、肺、腎臓など離れた臓器への転移があるステージⅣになると、手術による腫瘍切除が不可能なケースが多く、抗がん剤と放射線を組み合わせる。

 ほかのがんと同様、予後を大きく分けるのは、手術が可能かどうか。2000~04年の症例では、5年生存率は0~Ⅰ期が90%以上だが、ステージⅣでは20%を下回る。切除不能の大腸がんの予後は悪い。

「しかし、1990年代後半以降、新規薬剤(抗がん剤)が次々導入され、組み合わせによって、1次治療が駄目なら2次治療……と5次治療まである。それらの治療の結果、現在は予後が平均30カ月まで延びています」

 抗がん剤には従来型の薬と分子標的薬がある。分子標的薬は、特定の性質を持つがん細胞をターゲットとして攻撃する抗がん剤。「2種類の抗がん剤の併用+分子標的薬」「3種類併用+分子標的薬を逐次投与」などの組み合わせが予後を延ばしている。

 ジレンマは、薬がすべての患者に一様に効くのではないことだ。Aという薬が、ある人には抜群に効いても、ある人には効かない。ということは、効く・効かないを明確に示すバイオマーカー(指標)があれば“無駄撃ち”のない効率の良い治療ができる。そこで今、バイオマーカーの探索に力が注がれている。

■目を見張るほど予後が伸びる

 まず注目されたのが、大腸がんの22~77%に発現する上皮成長因子受容体「EGFR」だ。EGFRはがん細胞の増加や増大を促す。そこで、複数ある抗がん剤の中からEGFRの働きをブロックする分子標的薬(抗EGFR抗体)を選び、標準治療が全て効かなかった患者に投与。すると、がん悪化のリスクが46%減少した。発現率に関係なく、抗EGFR抗体が有効ということもわかった。

 次に注目されたのが「遺伝子変異」だ。EGFRからがん細胞に増殖や転移などを指示する信号が送られるが、この伝達を担うタンパク質の遺伝子の変異(RAS遺伝子変異)が50%の割合で見られることがわかったのだ。

 研究の結果、「RAS遺伝子変異があると抗EGFR抗体がまったく効かない」「RAS遺伝子変異がないと抗EGFR抗体でがん悪化リスクが減少する」ことが判明。ほかの遺伝子でも同じ結果だった。

 つまり、国内における大腸がんの治療最前線では、切除不能の進行・再発がんに対し、①がん組織のタンパク質や遺伝子などを調べる(バイオマーカー)②抗がん剤の効果や副作用を予測して高い効果を発揮する薬を選ぶ――となっている。

 また、RAS遺伝子に加え、DNAミスマッチ修復機能欠損なども重要なバイオマーカーであることが判明している。

「今後は、遺伝子変異で細かく分かれ、それに対して治療方針を立てていくようになる。欧米と比較して、日本はバイオマーカーの臨床への導入が遅れているが、新しく出た遺伝子関連検査のガイダンスがそのギャップを埋めていくでしょう」

関連記事