今年も日焼けの季節がやってきました。アメリカでは、特に白人の日焼けした肌への憧れは根強く、率先して日焼けしようとする人たちが少なくありません。しかし、紫外線で肌のメラニン色素が増えて色が濃くなる日焼けは、同時に肌にダメージを与え、アメリカ人が最も多くかかるがん5位の皮膚がんの原因ともなっています。
そこで、せめて日焼け止めを塗ってもらおうと、ニューヨーク市内の27のビーチや公園に、無料の日焼け止めディスペンサーが今年から設置されました。
そんな中で、マサチューセッツ総合病院が「肌にダメージを与えず、日に焼けた肌をつくれる薬を発見した」と発表し、話題になっています。同病院の皮膚科の権威デビッド・フィッシャー医師は、日焼けのメカニズムを分子レベルで解明し、メラニン色素を紫外線なしで増やす研究を続けてきました。
すでに、白いネズミに薬を投与して茶色のネズミをつくることに成功していますが、人間の皮膚はネズミの5倍厚く、分子まで届く強い効果を生み出すまでに10年近い時間を費やしたそうです。
今回発見されたのは、酵素の一種「塩誘導性キナーゼ」を抑制する物質を投与すると、メラニン細胞に直接働きかけて色素を発生させる仕組みです。その結果、自然な日焼け肌が得られ、その効果は約1週間続くといいます。
これまでも、日焼けを演出するクリームやスプレーは市販されていましたが、あくまで表面的な色の変化をもたらすのみでした。メラニン色素自体を増やす働きはなかったため、今回の発見は大きな快挙です。
しかし、研究の本来の目的は美しい日焼け肌をつくることではありません。肌にメラニン色素が多ければ多いほど、有害な紫外線から肌を守ることができます。その効果を利用して、皮膚がんのリスクを下げようというのが狙いです。フィッシャー医師は「今後の臨床研究により、近い将来、人間の肌に最も適した薬の市販にこぎ着けたい」とコメントしています。
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