この8月、東京・清瀬市に住む専業主婦、高橋咲子さん(65=仮名)は、4泊5日の台湾旅行を予約した。海外旅行は10年ぶりである。
10年前の韓国への家族旅行では杖を携帯した。それでも、韓国・仁川と成田空港の広いターミナルの移動では、「変形性膝関節症」の痛みで100メートル歩くと立ち止まった。
「このとき、これ以上、家族に迷惑をかけたくないと思い、旅行は諦める決心をしました。もう生涯、旅行などできないと覚悟したのです」
半年前、高橋さんは「東京慈恵会医科大学付属病院」(本院=新橋)の整形外科で、4時間に及ぶ左右同時の「人工関節置換術」(執刀医=斎藤充准教授)を受けた。
同病院で1カ月のリハビリ期間を終了して、無事退院。現在は自宅で散歩などのリハビリを続けているが、15年間、苦しみ続けていた膝の痛みはすっかり消えたという。O脚になっていた足も元に戻って真っすぐになった。
「今、歩くことや、自転車に乗るのが楽しくてしょうがありません。こんなに改善するなら、なぜもっと早く手術しなかったかと悔やまれます」
入院費用は100万円近く請求されたが、個人負担が3割、さらに高額療養費制度の請求で、実質の支払いは20万円弱で済んだという。
入院中の相部屋は、膝を手術した患者のみですぐに親しくなった。退院後もそのときの付き合いが続いている。その頃の入院仲間に会えば、膝関節の痛みで苦しんでいた時代を回想するという。
かつて高橋さんは、雑誌やテレビのサプリメントの広告で、“痛みが解消する”“軟骨が増える”などと目にすると、すぐ飛びついていた。
「毎月、平均数万円の出費でしたが、効果があったという実感は一度もなかった。これは、元患者の共通した意見でした(笑い)。私の経験から、膝関節でお困りの方には自信をもって手術を勧めます。決して怖くはありません」
ドキュメント「国民病」