朝起きたらぐっしょり…「寝汗」には意外な病気が潜む

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「朝起きたら寝汗でぐっしょりだった」――。誰にでもこんな経験はあるはずだ。寝汗をかくのは寝苦しさから動き回ったり、精神的ストレスのせいだけではない。病気が関わっていることもある。あなたは大丈夫?

 人間は寝ている間も汗をかく。そのシステムは起きているときとは違う。汗の専門家である菅屋潤壹・愛知医科大学名誉教授(生理学)が言う。

「起きているときの汗は上がり過ぎた体温を適正に戻すため。しかし、睡眠中の汗は体温を一気に下げるためです。寝る前に手足が温かくなるのは皮膚の毛細血管を拡張させて、たまった熱を体外へ逃すため。これに伴って汗が出て急速に体温が下がるのです。眠りに入ると、その深さによって汗の量が変わります」

 睡眠には眼球運動を伴わないノンレム睡眠と、伴うレム睡眠がある。ノンレム睡眠は「脳の休息と体のメンテナンス」を行い、4つのステージに分かれる。レム睡眠は「記憶の整理」が行われる。睡眠直後はノンレム睡眠に入り、どんどん眠りが深くなる。ノンレム睡眠では汗をかき、睡眠のステージが進むにつれてその量が増えていく。

「寝入ってから20~30分後くらいにステージ4を迎えると眠りが一気に深くなり、汗の量はピークとなります。その後、徐々に眠りが浅くなりレム睡眠に移ると汗が減少または消失します」(菅屋名誉教授)

 人間は一晩にこの睡眠周期を数回迎える。周期が進むにつれてノンレム睡眠の眠りは浅くなり、汗の量は少なくなる。そのため、実際は汗をかいているのに朝起きたときには体が乾いていて寝汗に気づかないという。

 ちなみに、レム睡眠に入るとノンレム睡眠時より体温は高くなる。レム睡眠では体温調整機能が鈍くなるからだ。

「健康な人でも暑いときに目が覚めるのは、レム睡眠が続くと無自覚に体温が急上昇して危険だからと考えられています」(菅屋名誉教授)

 実際、暑い日でも総睡眠時間はほとんど変わらないのに、レム睡眠の総時間数は気温29度と比べて34度ではその80%に減るという。

■悪性腫瘍も寝汗をかきやすい病気

 とはいえ、寝汗はこうした健康的なものばかりではない。なんといっても怖いのは病気によって引き起こされる寝汗だ。北品川藤クリニック(東京・北品川)の石原藤樹院長が言う。

「寝汗を伴う病気はいくつかあって、そのひとつが感染症です。結核が有名ですが、HIV感染症や伝染性単核球症なども寝汗をかくといわれています。甲状腺機能亢進症、糖尿病、褐色細胞腫などの内分泌疾患、リンパ腫や白血病などの悪性腫瘍も寝汗をかきやすい病気だといわれます」

 胃酸などの胃の内容物が逆流して胸焼けなどを起こす胃食道逆流症や、睡眠時無呼吸症候群といった病気のほかに、女性は閉経や妊娠に伴う寝汗がある。解熱剤、抗うつ剤などの薬による寝汗もある。海外の文献には1週間以上継続する寝汗の原因は胃食道逆流症と閉経によるものが多く、薬では解熱剤と抗うつ剤によるものが多いとされている。

「もちろん、寝汗だけで診断できるほどこれらの病気は単純ではありませんが、手掛かりになることは間違いありません。ただ、暑いこの時季に、寝汗で気をつけたいのは、薬物治療を受けている糖尿病の患者さんです。気づかずに夜間低血糖を起こしているかもしれません」(石原院長)

 低血糖になると、体が冷えるのに全身に大量の汗をかく。「アドレナリン」「ノルアドレナリン」などのホルモンを分泌して低血糖に対抗しようとするからだ。

「ノルアドレナリンは強い血管収縮作用があり、低血糖になると皮膚に血液が集まらず皮膚温度は急に低下します。これに汗の蒸発が伴ってますます皮膚が冷たくなるのです。一方で、熱産生作用のあるアドレナリンの働きで体内の熱は増える。これを冷ますため、さらに熱放散量を増やそうとして汗を大量にかくのです」(石原院長)

 低血糖を放っておくと命が危険になる。医師に相談する必要がある。

 たかが寝汗といっても侮ってはいけないのだ。

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