余命4カ月と言われた私が今も生きているワケ

胃の4分の3を切った後の高熱は明らかに医療ミスだった

猛烈に仕事をこなした(C)日刊ゲンダイ

「切りましょう。スッキリしますから」

 34歳のときに十二指腸潰瘍を患った私は、医師にこう告げられ、胃の4分の3を切除する手術を行った。取材中に水あめのようなヨダレが出たり、下痢や便秘を交互に繰り返したり、常に胃がズキズキと痛む状態だった。注射を打つと一時的にその症状は治まるものの、毎日がたまらなかった。

 それだけに手術には同意したが、潰瘍を治すにあたって胃をこれほど切る必要があるのかということには疑問を持った。

「そんなに切るんでしょうか? それって胃がんではないでしょうか」

 こう質問してみたが、違うという返答だった。医師は「今、手術しなければ、酒が飲めなくなる」と続けた。これが私には一番つらかった。

 ところが、手術後に高熱が出て、2週間の予定が、入院は何と2カ月に延びた。今なら明らかに医療ミスということになるが、当時の私は多くの患者がそうであるように、病気や治療について無知だった。文芸美術国民健康保険の高額医療の助成はあるものの、納得がいかないまま2カ月分の入院代を支払った。

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高橋三千綱

高橋三千綱

1948年1月5日、大阪府豊中市生まれ。サンフランシスコ州立大学英語学科、早稲田大学英文科中退。元東京スポーツ記者。74年、「退屈しのぎ」で群像新人文学賞、78年、「九月の空」で芥川賞受賞。近著に「さすらいの皇帝ペンギン」「ありがとう肝硬変、よろしく糖尿病」「がんを忘れたら、『余命』が延びました!」がある。