橋本テツヤの快適老齢術

転ばぬ先の自覚と謙虚さ 年を取れば取るほど忘れずに

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 老齢になると足を上げているつもりが上がってなく、つまずいてしまうことがある。加齢によって筋力が低下しているのだ。僕もスーパーの駐車場に張ってあった高さ40センチほどのチェーンを、若者のようにヒョイと飛び越えたところ、左足を引っ掛けてしまい、転んだことがある。幸いケガをせずに済んだが、頭の中だけは若いつもりなのだ。毎日1時間、室内自転車で足腰を鍛えている僕だが、まだ鍛え方が足りないと反省した。

 近所に住む60歳の主婦は、スリッパを履いて自宅の2階から階段を下りたところ、自分で自分のスリッパを踏んで転倒。大腿骨を骨折した。他人事ではない。「畳の上のケガ」ということわざがある。畳の上のような安全なところでさえ、ケガをすることがあるように、災難はどこでどんなふうに起こるか予測がつかないというたとえだ。

 毎日、平和に暮らしていると、人間は漠然とした危機感しかもたない。「危険と安全は隣同士」ということわざもある。今は安全でもいつ危険な目に遭うか分からない。

 僕はふだんから駅の通路などでは、常に10メートル先を見ながら歩くようにしている。歩いて行く前方で何か事件が起きたら、人々はそれを避けようと体全体を前後左右に激しく動かすはずだ。悲鳴も聞こえるかもしれない。そういう異様な光景が見えたら急いで後ろに戻り、安全な場所に行けばいい。

 10メートルの距離があれば、子供や年寄りでも走って逃げることができるだろう。そのためには、周囲に注意を払う習慣と観察力を身につけていなければならない。すれ違いざまに、若い女の胸ばかりをチラチラ見ているスケベオヤジでは、イザというときに逃げられない。

 満70歳になると、自治体によってシステムは異なるが、無料または年額数千円程度の負担金で、バスや地下鉄などを乗り放題で利用できる特別乗車証が発行される。高齢者の福祉向上が目的だ。

 ところが、70代半ばの元気な男が近所の練習場に行くのかゴルフバッグを持ってバスに乗り込んできた。狭い車内で大きなバッグは邪魔だ。バスを本当に必要としている高齢者の迷惑になっている。持ち込むなら、正当な料金を払って乗りなさいと言いたくなったが、この男、オレは年寄りだから敬老パスで乗車するのは当然の権利だという顔をしている。都合のいいときだけ老人になるのだ。

 人は年を取れば取るほど謙虚さを忘れてはならない。その謙虚さが、心の健康と若さにつながるのだ。

橋本テツヤ

橋本テツヤ

ジャーナリスト、コラムニスト、メンタルケア心理士、肥満予防健康管理士。著書多数。近著に「昭和ヒット曲全147曲の真実」(KADOKAWA)がある。全国各地で講演活動も精力的に展開中。