周囲驚かす性格の豹変には病気が潜んでいるかもしれない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「普段はおとなしいのに、最近急に怒ったり、笑ったり。どうしちゃったの?」「今日はやたらと人の集まるところに行きたがっちゃって変ね……」

 暑くなったり、忙しくなったりすると、一時的に周囲を驚かせる振る舞いをする人がいる。迷惑な話だが、ストレスがたまっていると思えば理解できなくもない。ところが、短期間にガラリと振る舞いが変わり、それが続くような場合は要注意。病気が隠れているかもしれない。サラリーマンの病気に詳しい弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長に聞いた。

「もっとも有名なのは高次脳機能障害です。事故や病気で脳に障害が起こり、新しいことが覚えられないなどの記憶障害や、物事に集中できずミスばかりする注意障害、スケジュール通りに物事を進められない遂行機能障害、場違いの場面で怒ったり笑ったりするなどの社会的行動障害など、多岐に及ぶ症状が表れます」

 この病気は外見上は障害がわからず、本人も病気の意識がない。そのため、障害を知らない人から誤解を受けやすく、人間関係のトラブルを起こしやすい。

「“発症の原因の大半は、バイクや車による交通事故で頭を強打するからだろう。車を運転することの少ない自分に関わりはない”と思われる中高年も多いかもしれません。しかし、間違いです。この病気の原因は脳卒中などの脳血管障害が圧倒的に多く、脳腫瘍などのケースもある。中高年には他人事ではありません」

 東京都高次脳機能障害者実態調査検討委員会が平成20年3月に発表した概要版によると、高次脳機能障害者のうち81・6%が脳血管障害によるもので、脳外傷は10%だった。年齢別で見ると、30歳以上は脳血管障害によるものが圧倒的に多かった。

■感染症や肝硬変も危ない

「問題は、身体的な後遺症が軽い脳梗塞などの脳血管障害であっても、この病気を発症するケースがあること。治療を受けて数カ月経ってから発症することもあるので、注意が必要です」

 甲状腺機能亢進症、うつ病、低血糖、不眠症なども怒りっぽくなることが知られている。

「別名『ピック病』と呼ばれる認知症も人格変化が見られます。脳の前にある前頭葉と側頭葉を中心に、萎縮により発症する認知症が前頭側頭型認知症で、その代表的な病気です。初老期に発症しやすく、感情のコントロールができずに怒りっぽくなります。少しずつ物忘れの症状も出てきます。露出などの性的逸脱も起こします。自身に病気の意識がないのが厄介です」

 意外だが、肝硬変によって肝臓の解毒能力が低下した結果、脳に毒素が回ってイライラ感が募り、怒りっぽくなることもあるという。

 日本脳炎やインフルエンザ脳症は、ウイルスや細菌が脳に広がることで、人にとっぴな行動を取らせることがわかっている。犬・猫好きな人はトキソプラズマ原虫による感染症にも注意が必要だ。

「この寄生生物が妊婦に入り込むと、胎児の神経系や目に影響を与えて流産したり、出産できても子供の脳や目に障害が起きる可能性があることが知られています。感染すると用心深さが失われるなど、人格や気分を変える可能性があるという説もあります」

 実際、科学雑誌「ディスカバー」のサイエンスライターが書いた「心を操る寄生生物」(インターシフト)によると、チェコのカレル大学の進化生物学者、ヤロスラフ・フレグル氏らは「トキソプラズマ原虫の感染が交通事故、統合失調症などの精神疾患、自殺までをも増やしている可能性がある」と主張している。

■性欲が高まる場合も……

 また、同書では、性感染症を引き起こす病原体が性欲あるいは性的魅力を後押ししている可能性や、インフルエンザウイルスが人を社交的にする可能性についても紹介している。

「病原体は感染が拡散するように宿主の行動を支配している、というわけです。海外では同じ考えの研究者も少なくないようです」

 アジアやアフリカなどで今も流行している狂犬病は、その病原体が脳に達すると、攻撃、性、空腹、のどの渇きなどを支配する大脳辺縁系に侵入し、強い性的な欲求を引き起こす。

「最近、怒りっぽくなった」「性格や行動が変わった」と言われたら、医師に診てもらう方がいいかもしれない。

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