Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

検査編<2>性別で違うHPV治療 女性は婦人科も男性は耳鼻科

 病気の中には、女性特有のものがあります。子宮頚がんは、そのひとつですが、決して男性も無縁ではありません。

 子宮頚がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頚部の粘膜に感染することが原因で、HPVはセックスで媒介されます。男性から女性だけでなく、女性から男性にも感染。男性が感染すると、尖圭コンジローマや陰茎がんなどの発症リスクが高まります。

 尖圭コンジローマは性感染症で、男女とも性器に良性のイボができる病気です。怖いのは陰茎がんですが、男性の悪性腫瘍の0.5%未満とそれほど多くはありません。確かに陰茎がんはレアながんですが、実はHPVを巡ってはもっと注意してほしいのが、咽頭がんです。

 咽頭は鼻の奥の「上咽頭」、扁桃や口蓋垂(のどちんこ)などの部分の「中咽頭」、のどぼとけの骨の辺りの「下咽頭」に分かれていて、HPVが感染しやすいのは「中咽頭」。その部分の粘膜は、子宮頚部の粘膜と環境が近いため、オーラルセックスなどでHPVが中咽頭の粘膜に感染すると、がん化する恐れがあるのです。

 咽頭がんは、一般に過度の喫煙や飲酒の影響が強いといわれます。しかし、こと中咽頭がんに関しては、HPVの影響が無視できません。米国では6割がHPVの感染が原因で、日本は5割。スウェーデンでは9割に上るという報告もあるほどです。

 米俳優マイケル・ダグラスさん(72)は自らのがんを公表し、「咽頭がんの主な原因はHPV感染だからね」と語っています。まさにその通りなのです。

 この事実が意味していることは何か。HPVワクチンの可能性です。日本では、子宮頚がんワクチンとして認可されたものの、副反応問題で揺れていますが、女性に限らず男性もHPVワクチンとして接種すれば、子宮頚がんも中咽頭がんも多くが予防できるということです。

 HPV感染による中咽頭がんは、比較的治りやすいことも分かってきました。HPVの有無で、治療法が変わるようになっています。男性も、HPVと無縁ではないことがお分かりいただけたでしょう。

 咽頭がんは比較的治りやすいものの、治療が遅れると声を失うリスクもあります。声がかすれる、喉が痛む、のみ込みにくいという症状がある場合は、放置せず、すぐに耳鼻科でファイバースコープ検査を受けるとよいでしょう。咽頭がんの患者数は男性が女性の2倍ですから、男性は要注意です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。