天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

予想以上に血管が石灰化していた高齢患者をその場の判断で対処

順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 そうした状況の中で、なんとか石灰化が少ないところを見つけ出し、石灰化した部分を削って取り除き、グラフトを縫い上げました。全部で4カ所のバイパスを作りましたが、最初の1カ所で苦労したので、想像以上に状態が悪い部分もあるということを頭に置きながら、他はできる限り状態の良いところを探して処置を終えました。

 幸い、バイパスに使うための血管を長く採取することができたので、うまく対処することができました。ただ、もしもすべての条件が悪い方向に進んでいたら、ヘタをすると手術中に心筋梗塞を招いたうえに命を失ってしまいかねない状況でした。

 84歳という年齢はそれだけで手術のリスクがアップするということを考えると、まずは薬で少し症状を落ち着かせてから、その後で手術を行うという選択もありました。しかし、その間に再び発作が起こったら危険な状態になるのは間違いありません。さらに、この患者さんは、なるべく早く手術をして早くリハビリを始めたほうが回復の度合いも良好になる可能性が高いと判断して、緊急手術を選択したのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。