動脈硬化に勝つ

胸の圧迫感の回数が増えたら「心筋梗塞」の発症が近い

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 心筋梗塞の多くは、前触れなく発症するが、一方で、先行して症状が出てくる場合がある。

「狭心症です。圧迫感や絞扼感、灼熱感などとも表現される胸の痛みが数秒から数分、せいぜい15分程度の短い時間で続く。胸以外にも、腕や奥歯、みぞおち、肩、顎が痛むこともあります」(伊東春樹医師)

 狭心症は動脈硬化や血管の攣縮(スパスム)で血管が狭くなり、心筋(心臓の壁を構成する筋肉)へ送られる血液が不足することで発症。

 狭心症で、階段を上ったり、急いで歩いたり、力仕事をするなど心臓に負担がかかるような動作をした時に胸の痛みが起こるものが「労作性狭心症」で、いつも同じような状況で発作が起こり、頻度や症状の強さが安定している時は「安定狭心症」と呼ぶ。この段階まではプラークの状態が“安定”している。

 寝ている時、特に明け方に胸が苦しくなるものが「安静時狭心症(冠攣縮性狭心症)」だ。

「安静時狭心症や、“狭心症の症状が頻回に起こるようになった”“今までより軽い労作で発作が起こる”“安静にしている時でも症状が出るようになった”という場合は、要注意です。これらは、『不安定狭心症』といって、プラークがはじけて血流が途絶えるようなことがいつ起こってもおかしくない、心筋梗塞の一歩手前の状態です。『不安定狭心症』の3人に1人が心筋梗塞を発症するといわれています」

 狭心症の治療は、まずは薬物だが、日本で多く行われているのが、カテーテル治療(冠動脈形成術:PCI)。カテーテルという細い管を腕や脚の付け根の血管から冠動脈の狭窄部まで入れ、バルーン(風船)を膨らませて狭窄を押し広げ、コイル状の金属のステントを留置する治療だ。また、バイパス手術は、大動脈から狭窄部分の後ろをつなぐ別の通路をつくり、心筋に血液を流れるようにする。

 しかし、実はカテーテル治療は、不安定狭心症や心筋梗塞といった急性虚血性心疾患には極めて有効であるが、思っているほど有効なものではないケースもある。それは、冠動脈狭窄はあるものの、症状の安定している「安定狭心症(慢性虚血性心疾患)」である。その理由を次に説明する。

伊東春樹

伊東春樹

日本循環器学会専門医、日本心臓病学会(上級臨床医、FJCC)。「けやき坂医科歯科クリニック」非常勤。