夏こそ要注意…腎臓は「運動で元気になる」の落とし穴

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「老廃物がたまり、尿タンパクが出やすくなる。だから運動をしてはいけない」――。かつてそう言われてきた慢性腎臓病(CKD)だが、いまは「腎臓は運動で元気になる」が基本だ。しかし、そのことで勘違いする人も少なくない。腎臓病専門医で「松尾内科クリニック」(東京・桜新町)の松尾孝俊院長に聞いた。

 一度、悪くなると元には戻らないといわれた腎臓。主に尿をつくり、体の中の老廃物や水を体外に捨てるために働いている。腎臓が悪化すると最終的に尿が出なくなり、透析治療が必要となる。厚労省の「患者調査」(平成26年)によると、日本の慢性腎不全(CKDが進んだ状態)の患者数は約30万人。

 しかし、腎臓はその機能が2割程度残っていれば血液や尿の数値に表れない。そのため、CKDの潜在患者数は、1330万人、8人に1人といわれている。

「腎機能が落ちた人に大敵といわれてきたのが、大量のタンパク質と塩分、それと運動です。タンパク質は体内で代謝されると尿酸など人体に有害な老廃物が残ります。腎臓はそれを無害化するので、大量摂取は負担となります。塩分も血中濃度が上がると尿として体外に排出しようとして腎臓が酷使されます。そして運動も、これまでは体内の老廃物がたまるから腎臓にはマイナスといわれてきたのです」

 それが最近、運動した方が腎臓にはいいといわれている。なぜか。

「CKDと診断されても、運動によってある程度腎機能が回復することがわかってきたからです。それを示す数々の研究論文が報告されており、CKDには運動療法が欠かせない。それが腎臓病治療の基本になっています」

■塩と水分はしっかりと

 実際、2014年に国立循環器病研究センターは運動療法の効果を示す研究報告を行っている。急性心筋梗塞で入院して3カ月間の回復期心臓リハビリテーションに参加した538人の3カ月後の腎機能の変化を調べたものだ。

「研究では、心臓リハビリ開始時に腎機能正常者とCKD患者に分け、CKD患者をさらに『退院後に外来心臓リハビリを週1回以上通った人』と『1回未満の人』に分けて分析しています。その結果、心臓リハビリ前後の比較では、CKD患者の腎機能は10%改善し、外来心臓リハビリでも回数が多い人は腎機能が10%も改善していたのです」

 英国の研究チームは、腎臓病患者を運動しない通常治療の群と1日40分の運動を週3回行う群とに分けて1年間追跡。前者は腎機能が悪化したのに、後者は大きく改善したと報告している。

「CKDの患者さんは原疾患として糖尿病や高血圧などを抱えています。運動でこれらの原疾患が改善することで、腎機能も回復するのです。ですから、ウオーキングであれ、水泳であれ、CKDのステージに応じた運動をすることが大切なのです」

 CKD患者に有効な運動とされるのが「有酸素運動」と「筋トレ」だ。CKDの重症度分類は5段階に分かれ、3までは積極的に運動し、4や5であっても尿毒素などの影響が出ていなければ運動は続けるべきだとされている。

 問題は、最近、筋肉量の低下により全身が衰えるサルコぺニアのリスクや、筋肉が分泌するホルモン(マイオカイン)が「心臓病」「がん」「うつ」などの予防に役立つと話題になっていること。ならば、少しでも筋肉量を増やそうと、無理して肉などのタンパク質を取る中高年が増えているのだ。

「先に述べたように、自分では気がついていないだけで、腎機能が損なわれている人は少なくありません。肉などのタンパク質を大量に取って筋肉を維持しようという中高年は、血液中の老廃物の一種である血清クレアチニン値や尿タンパクなどを調べた方がいい。また、CKDの人は熱中症には特に注意が必要です。夏は大量の汗をかくため、水と共に控えめにしている塩分も多めに取ることが大切です」

 健康情報は流行に振り回されずに、自分に必要なものだけキャッチし、それでいて臨機応変に。これが健康に過ごすためのコツだ。

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