動脈硬化に勝つ

死亡率が大幅減少 狭心症治療は「心臓リハビリ」が必須

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
心筋梗塞を起こしていない人と同程度の寿命に

 血管が75%以上狭窄して狭心症の発作があるが、プラークは安定していて破裂するリスクが低い「安定狭心症」の患者を対象に、ある比較実験が行われた。それは薬物療法に加え、カテーテルを入れてステントを留置する治療法と、適切な自転車こぎトレーニングを行った結果を、1年間比較したものだ。

 すると、「薬+トレーニング」の方が「薬+ステント留置術」より、死亡や狭心症の悪化による入院、心筋梗塞の発症、バイパス手術などが少なかった。医療費も大幅に安く済んだ。

「狭心症の治療において、トレーニングを組み込んだ心臓リハビリは非常に重要です。心臓リハビリを長くやるほど死亡率は減少するのです」(伊東春樹医師)

 心筋梗塞を起こした1800人以上を対象とした6年7カ月にわたる調査では、リハビリをしなかった人は心筋梗塞を起こしていない人よりも生命予後(長生きできるか)が悪いが、リハビリをした人の死亡率は56%も減少し、心筋梗塞を起こしていない人と変わらない寿命を全うできるとの結果が出ている。

 なぜなら、狭心症の原因は動脈硬化症だからだ。狭心症の治療として行われるカテーテル治療、バイパス手術は、狭窄部分を広げる、あるいは迂回して症状を取る。

 しかし、その場所以外に複数ある、次の狭心症や梗塞を起こすプラークを安定化させたり、治したりといった“動脈硬化症自体の治療”という役割は担えない。カテーテル治療で症状がなくなったからといって今までと同じ生活習慣を続ければ、動脈硬化が進行し、狭心症は早ければ2~3年で再発する。生命予後は改善しない。

 動脈硬化症の進行を止める、ないし改善するには、酸化ストレスを減らすよう生活習慣を改める必要がある。最も効果的なのは禁煙と運動だ。

 ただし、その人にとって強すぎる運動は、薬と同様に副作用もある。

 どういった運動がいいか、その強さ、時間、回数などは各人の状態によってそれぞれ違う。運動負荷試験という検査を行い、その人に合った安全で効果的な「運動処方」を出し、それに従って実施するのがよいとされる。

「4万4000人の男性を12年間追跡調査した結果では、若い頃の強い運動がトータルで2000時間を超えると、運動しない人より心房細動(脳梗塞の原因となる不整脈)を起こすリスクが明らかに高くなるという結果が出ています。また、中高年では強すぎる運動は整形外科的障害ばかりではなく、動脈硬化や心肥大など血管や心臓病の原因になります」
(おわり)

伊東春樹

伊東春樹

日本循環器学会専門医、日本心臓病学会(上級臨床医、FJCC)。「けやき坂医科歯科クリニック」非常勤。