Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

慈恵医大がん見落とし問題の教訓 検査結果は患者から確認

検査結果は患者自ら確認する姿勢が大切
検査結果は患者自ら確認する姿勢が大切(C)日刊ゲンダイ

 決して他人事ではありません。東京慈恵医大病院で相次いだがん見落とし問題についてです。

 病院の発表や報道などによると、72歳の男性は2015年10月、持病の悪化で緊急入院。CT検査の結果、肺がんが疑われたものの、引き継ぎの主治医が診断報告書を読まず、退院後に外来を担当した医師も1年間情報を見逃し、適切な治療が受けられず、今年2月に亡くなったそうです。

 ほかに09~15年にかけて50~80代の男女5人がCT検査や組織検査でがんを疑われながら、4カ月~3年間見逃され、このうち50代と70代の男性2人が亡くなっているといいます。いずれも情報の共有ミスが原因のようです。

 診断情報の引き継ぎや伝達のミスで家族の命が奪われたご遺族は、悔やんでも悔やみ切れないでしょう。しかし、現在の外来診療体制では、このようなミスは慈恵医大だけの問題ではないと思います。

 なぜか。原因は、分業体制にあります。

 患者が不調を訴えて受診したり、検診で異常が見つかったりすると、より精密な検査が行われます。そういうとき、主に外科医から依頼を受けるのが、われわれ放射線診断医や病理医です。CT検査の画像や採取した組織から診断。リポートをまとめて、依頼元の医師に渡します。つまり、主治医と診断医が別。医療レベルを高めるための分業体制ですが、そこに大きな原因があります。

 その医師がリポートを受け取ってすぐチェックすればいいのですが、必ずしもそうではなく、多くは患者さんの来院時にリポートを“見る”のが普通。私は、検査を受けた患者さんに後日、電話するように伝えていますが、電話がないと、そのままになる可能性は否定できません。

 もちろん、見落としは病院側のミスですが、外来や病棟に数多くの患者を抱えている以上、このリスクは決してゼロではないのが現状です。そういう中では、患者さんも医師とチームを組んで、率先して医療に参加するのが望ましいでしょう。それが、見落としリスクを減らすことにもなるのです。

 先日、乳がんで亡くなった小林麻央さんは、ブログを見ると、医師の指示通りに再診するのを忘れていたそうで、確定診断まで8カ月もかかったといいます。

 検査結果は、患者さんから確認することはとても重要です。そういう姿勢は、がん治療だけに限りません。生活習慣病での血液検査などの結果のときも同様です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。