気鋭の医師 注目の医療

半年以内に9割を鑑別 イタリアの名探偵コナンと呼ばれる男

聖マリアンナ医科大学東横病院失神センターの古川俊行センター長
聖マリアンナ医科大学東横病院失神センターの古川俊行センター長(提供写真)
聖マリアンナ医科大学東横病院失神センター・古川俊行センター長

 今年4月、国内初となる「失神センター」が開設された。

 失神の診療を専門とする「失神外来」(週1日)は、2012年から同大本院で行われていたが、それを本格的な診療部門(週6日)として切り離し、拡大した。そこで専任医師を務めるのが古川俊行センター長だ。国内の失神診療の現状をこう言う。

「国内で“失神”に興味をもつ医師は少なく、実際に診療にあたる医師も循環器内科や神経内科、内科など決まっていません。失神を含む意識消失の原因を診断することは難しい。失神を繰り返して困っている患者さんに十分対応できていなかったり、不必要な入院も多いのです」

「失神」とは、医学的には「脳に流れる血液が少なくなること」だけが原因で意識がなくなることをいう。「低血糖」「てんかん発作」「脳振とう」などを含めた「意識消失」(総称)のひとつである。

 失神は原因別に3つに分けられる。①「起立性低血圧」②「自律神経の失神(反射性失神)」③「心臓の病気による失神(心原性失神)」だ。

「失神が適切に診断されないと、不整脈を伴う危険性の高い心原性失神(全体の約30%)が見逃される可能性があります。実際には反射性失神が最も多い(同約50%)が、リスクが低いので受診しても『心配ない』や、診断がつかなくて『異常なし』と言われて、きちんと医療が介入できていないことも問題です」

 心原性失神では、ペースメーカーや除細動器の植え込み、カテーテルアブレーション、内服薬などの治療が必要。リスクの低い非心原性失神でも、生活指導を基本に失神を防ぐ回避法や訓練法の治療法がある。

■日本には100カ所程度の専門施設が必要

 失神の鑑別にはさまざまな検査が行われるが、同センターの診断率は2カ月(来院2~3回)で70%、入院検査が必要でも半年以内に90%は診断がつくという。

「診断がつかないケースが10%ありますが、いずれも頻度が少なくリスクの低い失神です。危険性が少ないことを丁寧に説明することで、ほとんどの患者さんは不安から解放されます」

 古川センター長が失神診療に精通するのは、イタリアの病院に留学経験があるからだ。欧州の一部の国の医療機関には、失神を専門とする医師が在籍する「失神専門診療ユニット(SU)」が存在し、失神診療の標準化が進められている。そのSUを最初につくったブリニューレ医師のもとでじかに学んでいる。

「欧州と日本では失神に対する考え方が違います。日本では意識を失ったら頭部CTを撮るのが一般的ですが、欧州では撮りません。一時的な意識消失ですぐ回復する失神では、脳卒中の可能性が低いからです。また、詳しく診断できる『植え込み型心臓モニター』を欧州では早い段階で使います。日本では保険適用になっていますが、まだ普及していません」

 高い診断率から古川センター長は、外来スタッフに“イタリアの名探偵コナン”の異名をもつ。人口約6000万人のイタリアに約70カ所のSUがあることから、日本にも100カ所くらいの失神診療の専門部門が必要と指摘する。

▽千葉県出身。1998年聖マリアンナ医科大卒後、東京医科歯科大第1内科・循環器内科。09年にイタリアに渡り、チグリオ病院に勤務。12年に聖マリアンナ医科大循環器内科、13年に講師。17年4月から現職。〈所属学会〉日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本不整脈心電学会。