意識障害から負の連鎖へ 高齢者の「脱水」が認知症を招く

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 高齢者は脱水を起こしやすい要素をいくつも持っている。放置すると、寝たきりや認知症を招く結果になりかねない。

「たかせクリニック」(東京・大田区)は、高齢者医療を得意とする在宅医療中心のクリニックだ。

 2004年の開院以来、延べ約1500人の患者の在宅療養を支えてきた。

 理事長の高瀬義昌医師は、「特に高齢者が在宅で気を付けたいこととして、『脱水↓譫妄↓骨折』といった流れがある。このケースが多い」と話す。

 譫妄は意識障害の一種。高齢者では脱水で一時的に起こりやすい。「ぼーっとする」「注意散漫」「認知や知覚の変化」などが見られる。

“過活動型”と呼ばれる譫妄では、夜間に興奮状態になり、ベッドの上で急に立ち上がろうとする、暴れだす、といった行動も見られる。

 結果、転倒しやすく、骨折のリスクが高まる。骨折で病院に運ばれ入院となると、認知症を発症、あるいは悪化する可能性が高くなる。

 高瀬医師によれば、「脱水↓譫妄↓転倒骨折↓認知症」というように、まさに負のスパイラル。譫妄は認知症の症状としても出てくるため、「認知症↓譫妄↓転倒骨折↓認知症の悪化」という図式もできる。

 それだけではない。認知症になると温度変化を感じにくくなる。暑い部屋の中、エアコンもつけず、ドアも窓も閉め切り、一日過ごす高齢者も珍しくない。

 このことから、「認知症↓脱水↓認知症の悪化」といった図式もできるのだ。

「体内の水分は筋肉に保たれるので、筋力が低下している高齢者は体内の水分量が少なく、もともと脱水を起こしやすい。それも負のスパイラルに関係しています」(高瀬医師)

■安易な水分補給も問題

 さらに、脱水を起こしている時に水や茶を飲むなど、安易な水分補給も問題だ。

「血液中のナトリウム濃度が低下し、低張性脱水(ナトリウム欠乏性脱水)を起こすのです。これも譫妄の原因になります」(高瀬医師)

 東京都新宿区を中心に訪問看護、居宅介護支援、訪問介護事業を展開する秋山正子氏は、在宅医療の現場で遭遇する高齢者の救急の搬送の原因として「脱水、発熱、誤嚥、急性腹症、転倒、骨折、便秘、意識障害(譫妄など)」を挙げ、「脱水はすべてに関連している」と指摘する。

 脱水でのみ込みづらく、誤嚥を起こしやすい。便秘になりやすく、急性腹症につながる。

「救急搬送されて入院となると、高齢者では廃用症候群(過度の安静状態で心身の機能が低下する)や認知症の悪化を招く。むやみに救急車を呼ばなくて済むためにも、日頃からの脱水予防が大切です」(秋山氏)

 ところが、高齢者では水を向けても飲まない人が少なくない。「トイレに行く回数を増やしたくない」「嚥下機能の低下でむせる」といった理由で水分摂取を控える人や、「判断力が衰え、お茶が入った一杯の湯飲みをいつまでも持っている」という人も。

「そういう場合は、経口補水液のゼリータイプがおすすめです。水分では取ろうとしない高齢者も、ゼリーだとつるっと食べてくれる。それが呼び水になって、水分を取ってくれることはよくあります」(秋山氏)

 親と離れて暮らしている人は、せめて、経口補水液のゼリーを親に送るところから始めるか。

 高齢者はそもそも、脱水を起こしやすい。主な理由は以下の通りだ。

●筋肉量の低下
●喉の渇きを自覚しづらい
●腎機能の低下
●食事量の減少
●利尿作用のある薬の服用
●認知症で暑さが平気に
●認知症で自律神経の働きが低下

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