気鋭の医師 注目の医療

男性ホルモンを抑えることで膀胱がんの再発を70%抑制

横浜市立大学付属市民総合医療センターの泉浩司医師
横浜市立大学付属市民総合医療センターの泉浩司医師(提供写真)
横浜市立大学附属市民総合医療センター・泌尿器腎移植科 泉浩司医師

「ホルモン療法(抗アンドロゲン療法)」の膀胱がんへの適応拡大が期待されている。その有効性を世界で初めて報告したのが、横浜市立大学医学部泌尿器科の泉浩司医師を中心とする研究グループ。その功績で2014、15年と2年連続で日本泌尿器科学会総会賞を受賞している。

 現状の膀胱がん治療の問題点について、泉医師はこう説明する。

「年間約2万2000人が発症(男女比3対1)する膀胱がんの8割は、内視鏡で切除できる『表在性がん』です。ただし、他のがんと違って内視鏡治療後、半数以上が再発するので、それをどう減らすかが課題となっています。再発を繰り返すうち、約10%が進行性のがんになります」

 再発予防には通常、内視鏡治療後、カテーテルで膀胱に抗がん剤やBCG(ウシ型弱毒結核菌)を注入する「膀胱内注入療法」(週1回計6~8回程度)が行われるが、その予防効果は十分とはいえない。また、再発リスクが高いがんに行われるBCG注入は、「頻尿」「排尿痛」「血尿」「発熱」などの副作用が強い。しかも、経過観察で尿道から挿入する「膀胱鏡検査」(粘膜麻酔を使うが痛い)を3カ月に1回行わなければいけない。再発すれば内視鏡治療を何度も行うことになる。

 膀胱がんは早期がんでも治療後の再発予防が大切。そのため、新たな治療法の開発が待たれている。その候補のひとつとして「ホルモン療法」に目をつけたのが泉医師らの研究だ。ホルモン療法は前立腺がんでは一般的な治療法で、注射や内服薬でアンドロゲン(男性ホルモン)の作用を抑制する。

「ホルモン療法が膀胱がんの再発抑制に役立つのではないかと感触をつかんだのは、米国留学中(3年間)です。当時、アンドロゲンは膀胱がんの発症に関係するのか、マウスや細胞を使って基礎研究をやっていたからです。それで帰国後、ホルモン療法が実際に膀胱がんの人にどう影響しているのか調べたのです」

 研究は、神奈川県内の16医療機関において、約2万人の前立腺患者の中から膀胱がんを合併した239人を抽出。その中から条件を満たす162人について、ホルモン療法の有無別で膀胱がんの再発を調べたのだ。

 その結果は、ホルモン療法を受けていない76人のうち、再発したのは38人(50%)。一方、ホルモン療法を受けていた86人のうち、再発は19人(22%)。5年無再発生存率は、ホルモン療法群では76%、非投与群では40%と有意な差が出た。

「多変量解析によって、ホルモン療法を行うと膀胱がんの再発が約70%抑制されることが分かりました。また、性ホルモンが膀胱がんを発生させる原因物質のひとつであることが初めて臨床的に証明されたことになります」

■米国で治験が進行中

 泉医師らの研究報告後、米国では実際に膀胱がん患者にホルモン療法を行う2つの治験(15年2月~と16年1月~)がスタートしており、第2相試験が進行中という。

「私たちも今後は、膀胱がん単独の患者さんを対象にした研究ができるように、準備を進めているところです」

 近い将来、膀胱がんの再発予防が楽にできるかもしれない。

▽神奈川県出身。2003年横浜市立大学医学部卒。東芝林間病院などに勤務後、09年に米国ロチェスター大学に留学。横浜市立大学医学部、横浜市立市民病院を経て、17年4月から現職(助教)。

〈所属学会〉日本泌尿器科学会専門医、日本泌尿器内視鏡学会・腹腔鏡技術認定医。