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全身温熱療法でうつ病の症状が改善するのか?

何かとストレスが多い現代社会
何かとストレスが多い現代社会(C)日刊ゲンダイ

 ストレス社会といわれる現代において、うつ病のような精神疾患はもはや特別な病気ではありません。程度の差はあれ、抑うつ症状を経験したことがある人は少なくないように思います。

 過去の研究によると、皮膚を通じた温感刺激が、脳神経の活性化を促すことが示されているようです。米国医師会の精神科専門誌(2016年8月号)に、うつ病患者における全身温熱療法の有効性を検討した研究論文が掲載されました。

 全身温熱療法とは、体の表面に赤外線を照射して体全体を温める治療法のことです。この研究では、18~65歳で身体的には健常なものの、うつ病の診断をうけた34人が対象となりました。「全身温熱療法を行うグループ」と、「偽の温熱療法を行うグループ」にランダムに振り分け、うつ病の症状を6週間にわたり比較検討しています。なお、うつ病の症状は17項目の質問票を用いた評価尺度で点数化されました(52点満点で点数が高いほど症状が悪化)。

 研究の結果、全身温熱療法を行ったグループでは、偽の温熱療法を行ったグループに比べて、1週目で6・53点、2週目で6・35点、4週目で4・5点、6週目で4・27点、統計的にも有意に点数が少ないことが示されました。

 全身温熱療法の長期的な安全性など、今後も検討すべき点は多々ありますが、うつ病治療の新たな選択肢として期待できるかもしれません。

 ただ、本研究ではうつ病の症状を点数で評価しており、結果として示された差が実際にどの程度体感できるものかは、人によってさまざまである可能性もあります。

 また、日本ではうつ病に対する全身温熱療法は保険診療では行われていませんので注意してください。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。