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脱毛症長新東京クリニック/美容医療・レーザー治療センター(千葉県松戸市) 瀧川恵美センター

新東京クリニック 美容医療・レーザー治療センターの瀧川恵美センター長
新東京クリニック 美容医療・レーザー治療センターの瀧川恵美センター長(提供写真)

 再生医療のひとつに「PRP(自己多血小板血漿)療法」という治療法がある。

 患者から採血した血液を遠心分離機によって血小板を多く含むPRPを取り出し、それを患部に注射したり、塗ったりする。血小板に含まれるいくつもの成長因子により、傷の治癒や組織再生が促されるのだ。1998年に米国マイアミ大学で顎骨再建治療に使われて以来、「歯科口腔外科」「皮膚科」「整形外科」「形成外科」などの領域で治療(保険適用外)に用いられている。

 そのPRP療法を「脱毛症治療」に応用し、2011年に世界に先駆けて臨床試験の結果を報告したのが瀧川恵美センター長。始めたきっかけをこう言う。

「大学院時代にPRPを注射すると皮膚でどのような変化が起こるか、マウスやラットを使って研究していました。すると毛包が増えていることに気づき、過去の海外論文を調べてみると、06年に植毛術にPRPを併用すると毛の生着率が向上する報告がありました。それでPRPは毛髪の成長を促すのではないかと推測したのです」

 臨床試験は、薄毛を気にするボランティア26人(男性16人、女性10人=平均年齢45歳)を対象に実施。PRP投与前と投与後(2~3週間隔で5回)の「毛髪数」と「毛の断面積(太さ)」を評価した。結果は、毛髪数では有意差はなかったが、太さの平均増加率では大きな有効性を認めた。

 瀧川センター長がPRP療法による脱毛症治療を実際に外来で開始したのは15年から。これまで13人(男性5人、女性8人)の患者が治療を受けている。基本的に毛根が残っていれば、どんなタイプの脱毛症でも適応になるという。

「これまでの症例では、男性はすべて男性型脱毛症(AGA)で、1人は円形脱毛症を合併していました。女性は、頭髪全体が抜ける全頭型の円形脱毛症が4人、先天性縮毛症(毛が縮れる)が1人、びまん性脱毛症(女性のAGA)が3人です」

 治療手順は、採血後、PRPを抽出・調整している間に、約1時間かけて頭部に表面麻酔(クリーム)とブロック注射で麻酔をかける。そして注射器6~7本分のPRPを脱毛した範囲に細かく注射(30~40分)していく。この治療を1~2カ月に1回行う。約5回の投与で改善が見られ、その後は維持治療を行う。現在、平均治療回数は7回である。

 ただし、費用は自費で1回12万円(税抜き)、5回コースでは50万円(同)と高額になる。何回受ければ、どの程度髪が増えるかは個人差が大きいので、費用対効果で患者の満足度は異なる。

「PRPは休止期にある毛根の成長期への移行を促進し、成長期の期間を維持する成長因子を含んでいます。ただAGAの場合、抜け毛の原因は男性ホルモンにあるので、飲み薬のプロペシアやザガーロを併用した方が効果は上がります。効果に個人差はあっても、少なくてもPRP治療で脱毛が進行した症例はありません」

 自己血液を使うため副作用が非常に少なく、安全性が高いのもPRP療法の特徴。

 まだ症例やデータが少ないが、難治の脱毛症に悩む人にとっては一筋の光明が差す治療法といえる。

▽北海道出身。2001年防衛医科大学校卒。自衛隊中央病院及び関連施設に勤務後、防衛医科大学校医学研究科(大学院)に進み12年卒。14年に自衛隊を退官、新東京病院形成外科・美容外科へ。15年から現職。〈所属学会〉日本形成外科学会、日本美容外科学会(JSAPS)専門医など。