がん治療で注目の免疫細胞と心不全との“意外な関係”

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 免疫細胞は、体の中に侵入してきたウイルスや細菌から身を守る白血球などのこと。最近は手術、抗がん剤、放射線と並び、第4のがん治療の柱として注目されているが、実はこの免疫細胞は心不全の生命予後(病気の経過と結末に関する医学上の見通し)にも大きくかかわっている可能性があるという。どういうことか? 東邦大学医学部名誉教授(循環器)で平成横浜病院の東丸貴信総合健診センター長に聞いた。

「疲れやすい、だるい、動悸がするといった症状を起こす心不全は病名ではありません。心臓が十分働かなくなった結果に起きる体の状態をいいます。慢性と急性があり、日本では心不全の半分は心筋梗塞や狭心症によるものですが、心筋炎などの炎症反応によるものもあります」

 日本の65歳以上の高齢者人口は3461万人(2016年度)。日本の全人口の27・3%を占める超高齢社会だ。心不全は心筋梗塞、弁膜症などさまざまな疾患の最終的な病気で、高齢者に多い。65歳以上の人口の10%以上が心不全といわれ、今後、ますます増加することが予想されている。

■国際学会でも関心の的に

 問題は、この病気の予後が、他の慢性疾患と比べて著しく低いことだ。

「日本では毎年130万人近くが亡くなります。そのうち、がんで亡くなる人は約37万人。心臓の病気で亡くなる人はそれに次いで20万人です。ただ、がんは肺がん、胃がん、乳がん、大腸がんなどの臓器がんをすべて合わせた数字なので、心臓は単一の臓器では最も死亡率が高い臓器といえます。そのうち7万人が心不全で亡くなります。がんの中で一番死亡数が多い肺がんが約7万人ですから、心不全は肺がんと並んで最も多い死因なのです」

 しかも、心不全の死亡率は想像以上に高い。

 国立がん研究センターが発表したすべてのがんの10年生存率は58%余り。一方、重篤な心不全(心不全の重症度を4つに分けたNYHA分類でⅣ度)では1年で50~60%が亡くなり、軽度(Ⅰ~Ⅱ度)でも1年で5~10%が亡くなる。なぜか?

「心臓が圧や容量による負荷、酸化ストレスやウイルス感染にさらされると、心筋の損傷治癒のために炎症を起こします。そして、自分の心筋などに対する自己免疫反応が起きて慢性炎症となります。心筋障害が進むと、結果的に血液を全身に送り出すポンプ役として心臓のなかでも最も負荷がかかる左心室が拡張する『左心室リモデリング』が進行し、やがて死に至るとの説があるのです」

 また、細胞のゴミを片付けるオートファジーの異常も原因ではないか、との見方もある。

 いずれにせよ免疫異常が心不全を進行させるとは意外な話だが、心不全症状を起こす拡張型心筋症では抗心筋自己抗体を独自のフィルターでこし取る免疫吸着療法が一時先進医療に取り入れられた。

 しかし、免疫反応には液性免疫の自己抗体だけでなく細胞性のものも関係しているので、効果は不十分であった。

「心筋炎や心不全には自己抗体が関係しない自然免疫や細胞性免疫が関わっているので、いまはこれらに関係する炎症性物質などを抑える治療法が研究されています。心不全と免疫の関係や心不全治療は世界的に注目されていて、先日カナダのバンクーバーで行われた世界心臓病学会でもトピックとして取り上げられていました」

 がん治療と同様、いずれ心不全のための免疫療法が開発されるかもしれない。

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