余命4カ月と言われた私が今も生きているワケ

予防より病気は悪くなってからジタバタするのが正しい

高橋三千綱氏
高橋三千綱氏(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病になる前に検査入院でお世話になった東京専売病院(現・国際医療福祉大学三田病院)はたばこが吸えた。今なら考えられないが、おおらかな時代だった。先生は「病院食はマズいから」と自ら言い、私に外食の許可まで与えたものだ。

 その先生と付き合っていた頃は血糖値は安定していたが、先生は他の病院に移られてしまった。後任の主治医とはウマが合わなかった。毎回、数値ばかりを言う人で、「嫌な人だな」と内心思っていた。

 そうこうするうちに重度の糖尿病になってしまった。そこで次は千葉県鴨川市の亀田総合病院に入院してみた。リハビリ中心の病院だが、最初からいい印象を持った。何しろ、夕食にビールが出るのだ。普通、検査の前はいい結果を出そうとして暴飲暴食は控えるものだ。しかし、亀田はそれでは普段通りの結果が出ないということで、夜に酒を注文できるのだ。 

 もちろん、私は糖尿病だから飲むわけにはいかないが、周りには赤ら顔の入院患者がいた。料理自体もちゃんとした献立があって、いわゆる病院食というイメージはみじんもない。

 入院してすぐに看護学校の生徒たちと仲良しになった。病院の近くに亀田医療技術専門学校があって、若い子らにゴルフを教えたり、冗談を言い合ったりと楽しかった。入院は年に1回、1週間ほどだが、4、5回は行った。糖尿病は決して良くはならない。ならば、こういう入院の仕方があってもいいと思う。入院も楽しまなくちゃいけないのだ。

 亀田総合病院には、競馬の騎手の方々も大勢リハビリに通われていた。関西のジョッキーが多かったが、一般では聞けない馬の情報を得たり、とても有意義な時間だった。なぜだか知らないが、私はいつどこへ行っても面白い人たちと知り合ってしまう。これも運だ。

 59歳になった2007年からインスリンを打ち始めて、今も食事の前は欠かさない。血糖値は食事をすると上がるので、その30分ほど前に打つ。けさの血糖値は110で、今は少し経っているので220くらいだ。

 糖尿病の医者の多くは血糖値の数値ばかりを気にし、下げろ下げろとしか言わない人もいる。しかし、以前の糖尿病の薬は血糖値を下げるだけで、体はちっとも良くならなかった。むしろ、悪くなって低血糖に陥ることもある。

 ある日、私は運転中に低血糖になって呼吸困難になった。運転中に目が見えなくなるのだから、こんなに危険なことはない。そこで何人にも診てもらうと、ある先生がこう言ったのだ。

「高橋さん、薬はやめましょう。高橋さんの言う通り、患者が自分の体を一番よく知っています。元気な時に変なことはしない方がいい。予防なんてみんな言いますが、病気は悪くなってからジタバタすればいいのです」

高橋三千綱

高橋三千綱

1948年1月5日、大阪府豊中市生まれ。サンフランシスコ州立大学英語学科、早稲田大学英文科中退。元東京スポーツ記者。74年、「退屈しのぎ」で群像新人文学賞、78年、「九月の空」で芥川賞受賞。近著に「さすらいの皇帝ペンギン」「ありがとう肝硬変、よろしく糖尿病」「がんを忘れたら、『余命』が延びました!」がある。