Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

相次ぐ若年性乳がん 「トリプルネガティブ」でも諦めない

乳がんで亡くなった小林麻央さん
乳がんで亡くなった小林麻央さん(C)日刊ゲンダイ

 野球ファンならご存じでしょう。中日・森繁和監督(62)の長女・矢野麗華さんが7日に乳がんで亡くなったことです。35歳という若さで長女を失った翌日のミーティングでは、「一人になると、つらくなる。ユニホームを着て一緒にやらせてくれ」と語り、志願の采配。通夜が営まれた13日も、2回までヤクルト戦の指揮を執ってから会場へ。その姿には、ファンならずともエールが送られました。

 先日、乳がんで亡くなった小林麻央さんは、享年34。若くして乳がんで命を落とす方が相次いでいます。若年性乳がんについて考えます。

 おふたりがそうだということではありませんが、若年性乳がんには「トリプルネガティブ」と呼ばれるタイプがあります。ネットなどでは、“性質の悪いがん”などと書かれることがありますが、必ずしもそうではありません。

「トリプルネガティブ」には、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの2つの受容体とHER2遺伝子がありません。“ない”ものが3つだからトリプルネガティブです。

 女性ホルモンの受容体があれば、ホルモン療法が効きますが、ないので効きません。がん細胞の増殖に関わるHER2があれば、そこを標的にする分子標的薬のハーセプチンが効果的ですが、これも期待できません。

 トリプルネガティブは概して増殖能力が高く、治療薬が限られているように思われますが、必ずしもそうではありません。

 トリプルネガティブから分かるのは、ホルモン療法とハーセプチンについてだけで、抗がん剤については何も語っていません。その抗がん剤の効き方で分類すると、①そもそも抗がん剤が不要な予後良好のタイプ②抗がん剤がよく効くタイプ③抗がん剤が効かないタイプに分かれます。

 もう一つ再発率。発症から3年は、ほかのタイプより高いものの、3年を過ぎると、ほかよりグッと低くなります。

 米女優のアンジェリーナ・ジョリーが、乳がんの予防で乳房を切除したと公表したのは2013年5月。その決断の根拠となったのが、BRCAという遺伝子の変異です。これは、がんを抑制する働きがありますが、ないと乳がんや卵巣がん、男性なら前立腺がんや膵臓がんになりやすいのです。乳がんの場合、発症リスクは遺伝子が正常な人に比べて10~19倍。

 そんな事情から、アンジーは乳房の予防切除に踏み切りましたが、BRCAを標的にした治療薬の開発は進んでいます。トリプルネガティブの中には、BRCA変異群も含まれていますから、薬の登場で治療の可能性はさらに広がるのです。

「トリプルネガティブ」も早期ほど予後は良好ですから、検診と同様にセルフチェックも大切。ネガティブなイメージに振り回されてはいけません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。