気鋭の医師 注目の医療

大腸内視鏡検査(水浸法)/新宿内視鏡クリニック(東京都新宿区) 後藤利夫医師

新宿内視鏡クリニックの後藤利夫医師
新宿内視鏡クリニックの後藤利夫医師(提供写真)
鎮静剤不要で痛くない

 全国各地の医療施設に出向いて、「痛くない」新方式の大腸内視鏡検査を広めている後藤利夫医師(写真)。近年は「無痛」と称して鎮静剤を併用する施設が増えてきているが、それとも違う。後藤医師が普及に努めているのは「水浸法」による大腸内視鏡検査。従来の方式と何が違うのか。

「通常の大腸内視鏡検査は『送気法』といって、内視鏡を挿入するときに2リットルくらいの空気を入れます。一方、水浸法は空気の代わりに100~200ミリリットルの水を流しながら内視鏡を挿入していきます。この方法でやると鎮静剤を使わなくても痛みがなく、送気法より安全に内視鏡を盲腸まで入れることができます」

 腸の粘膜には、ほとんど感覚がない。だから内視鏡で粘膜を切除するときも痛みを感じない。ところが腸が膨らんだり、伸ばされたりして一定の圧が加わると痛みが出る。

 送気法で空気が入りすぎると腸が風船のように膨らみ、折れ曲がって、内視鏡が入りにくくなる。これが検査時の痛みの原因だ。

「腸の痛みは正常な反応ですので、鎮静剤で痛みの感覚を抑えてしまうことは逆にリスクがあります。内視鏡がうまく入っていかずに強く押しても患者さんは痛がりませんから、慣れていない術者が無理に内視鏡を押しすぎると腸が破れる穿孔事故を起こすのです」

■5万件で穿孔事故ゼロ

 水浸法が痛くないのは、水があることで内視鏡のすべりがよくなり、水の浮力で内視鏡の重さが半分になって弱い力で挿入できるから。流しそうめんと同じ原理だという。素早い操作はせずにゆっくり挿入するので、盲腸までの深部挿入時間は簡単な人でも2分以上かかる。

 しかし、挿入困難が少ないので、平均時間は4分半と早い。後藤医師がこれまで行った水浸法は約5万件、穿孔などの事故はゼロという。

「鎮静剤は最初から希望する人もいるので、全く使わないわけではありません。何回か腸の手術をしていて痛がるような人などには使います。それでも最初から希望する人を除き、鎮静剤を併用するのは全体の5%程度です」

 後藤医師が水浸法を始めたのは、東大病院時代の恩師からの厳命がきっかけ。

 それは「大腸内視鏡を指導するとき空気を入れない無送気法にすること」。それで弟子のひとりが注射器で水を注入すると内視鏡が入りやすいことに気づき、もうひとりの弟子である後藤医師が内視鏡の先から水を出す送水ポンプを開発。1994年に水浸法が完成した。

 それ以降、徳洲会グループの病院を中心に水浸法の弟子を50人くらいつくってきた。

 同クリニックの院長もそのひとり。いまでは孫弟子もいる。

「普及に力を入れているのは、40歳以上で大腸内視鏡検査を受けている人が約25%しかいないからです。検査に痛みがなければ、多くの人に受けてもらえます。昨年にはマニュアル本も出したので、一般医や開業医の先生方に水浸法をやってもらえれば幸いです」

 検査前に2リットルの下剤を飲むのが苦痛という人は、胃と大腸の内視鏡検査を同日にやるのがおススメ。同クリニックでは、胃内視鏡検査のときに下剤を内視鏡で注入するので飲む必要がない。両方を同日にやれば一石二鳥だ。