数字が語る医療の真実

【かっけ】鶏のかっけに似た病気とは人間のかっけは別物

 かっけが玄米によって消滅するというニワトリの実験の結果が日本に届いたのは、1897年のことでした。もともとオランダ語であったこの論文がドイツ語に訳され、再報告されるのに時間がかかったのです。

 この報告を受け、東大の教授・青山胤通はさっそく追試を指示します。その報告が翌年の東京医学会総会でなされますが、「ニワトリのかっけに似た病気は人間のかっけとは別だ」との内容で、かっけの予防につながる動きになりませんでした。

 しかし、この報告の前後には日清・日露戦争があり、麦飯を食べていた海軍ではかっけがほとんど発生せず、白米を取り続けていた陸軍では30万人のかっけ患者と3万人のかっけによる死亡者を出しています。この現実は、細菌説をとる東大のグループをも動かしていきます。日露戦争後の1908年のことです。1884年の戦艦筑波でのかっけ予防から20年以上が経過しています。

 陸軍軍医の森林太郎を委員長とする臨時脚気病調査会は、3人の委員を任命します。そのうちのひとり、都築甚之助はインドネシアの研究の進んだ状況を目にし、人のかっけも玄米により治療予防されている現実を目の当たりにします。そして帰国後の1910年、日本医学会で調査結果を報告します。

 その内容は、「白米飼育によって動物に発生する病気は、人間におけるかっけと同様で、米ぬか、麦によって治療予防ができる」というものでした。

 しかし、この後、都築は委員を罷免されます。3万人のかっけ死亡をほとんど0にするかもしれない治療予防法がまだ採用されないのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。