がんと向き合い生きていく

がんと診断されて納得いく治療を受けるために必要なこと

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長
都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 上腹部に不快感を覚えてから3カ月、Gさん(56歳・男性)はようやく仕事を休んでC病院の内科外来を受診しました。内視鏡検査とCT検査を行い、翌週に検査結果を聞きにいくと、こう告げられました。

「進行した膵臓がんです。肝転移もあり、手術はできません。抗がん剤治療が適応になりますが、副作用もあり、まずは入院が必要です。治療法はA法とB法があります。自分でどうするか選択してください。詳しくはこの紙に書いてあります」

 Gさんは頭が真っ白になり、担当医の声が遠くから聞こえる気がしたそうです。

 保険に入っておけばよかったか? 明日の会議はどうする? 脳梗塞の父の介護は? 妻にはなんと言おうか……。さまざまなことが頭の中をぐるぐる回っていました。担当医からは、がんの進み具合で血管がどうの、胆管がどうのなどと言われた気がしましたが、まったく分かりませんでした。

 診察が終わり、Gさんは病院の外のベンチに座りました。ずっと頭の中の整理がつきません。

 本当にがんなのか? 手術できない? 抗がん剤治療を自分で選べって? 信じられない。ウソだ。こんなに元気なのに! 診断が間違っているのではないか? こんなに真面目に働いてきたのに、何も悪いことをしていないのに……。どうして自分がこんな目に遭うんだ。あの医者はしゃあしゃあと言いやがって……。あの看護師も何なんだ! 「早くどうするか決めてください。ベッドは混んでいますので」だって!?

 俺は末期がんなのか?がんで有名な病院に移るべきか? でも、また最初から検査し直しになるのか……。膵臓がんは助からないって言うじゃないか。俺は死ぬのか? 抗がん剤は本当に効くのか?

 帰宅したGさんは、夜になって奥さんに打ち明けました。その際、まだ聞きたいことがたくさんあることに気づきました。病気のこと、入院期間のこと、治る可能性はあるのか、会社は辞めないといけないのか……。

 GさんはC病院の相談室に電話をかけ、後日、奥さんと一緒に担当医に再度説明してもらうこととしました。

 セカンドオピニオンで来院された作家のHさん(68歳・男性)は、F病院消化器外科でさまざまな検査を受けた後、こう言われたそうです。

「胆のうがんでしょう。糖尿病がありますし、年齢からみても手術は危険を伴います。副作用の少ない抗がん剤の治療を勧めます」

 Hさんは抗がん剤を内服していました。ところが、本人の解釈では「副作用の少ない抗がん剤の治療を勧めるということは、がんはそれほど進んでいない。副作用の少ない抗がん剤で治るのだと思っていた」というのです。

 しかし、F病院からの診療情報提供書では、がんは手術できないほど進行し、抗がん剤しか治療法はない状態でした。 

■日を改め家族と一緒に説明を受ける

 がん治療に臨む際は、しっかり医師の説明を聞いて、納得して治療を受けることが大切です。がんと告げられた時は頭の中が真っ白になるのは無理もありません。その時はもう一度、日を改めて別に時間をとってもらい、家族や友人と一緒に説明を受けましょう。そして、聞きたいことを事前にメモしておくことです。

 説明を受ける時は、まず正確な病名を聞いてください。そして病気の進み具合、たとえば胃がんならがんの大きさ、壁の中での深さ、転移はあるのか、転移があれば近くのリンパ節なのか、遠い臓器まであるのか……。 がんのステージ(病期)は1から4まであります。ステージ1は早期、ステージ4は遠隔転移あり(肝臓、肺、骨など)です。これで治療法が変わってきます。

 がんと診断された時、闘いのスタートラインに立ったのです。まずはしっかり説明を聞いて、納得して治療をどうするかを決めるのです。どうか、負けないで一緒に闘いましょう。

 ステージ4でも治った方はたくさんいらっしゃいます。応援しています!

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。