決算書でわかる有名病院のフトコロ事情

選択と集中…東京・多摩地区の総合病院の「静かな戦い」

多摩地区の病院に目を向けてみよう(写真は武蔵野赤十字病院)
多摩地区の病院に目を向けてみよう(写真は武蔵野赤十字病院)/(C)日刊ゲンダイ

 多摩総合医療センター(府中市・756床)は、北多摩南部医療圏と呼ばれる医療行政上の区割りに属しています。このエリアには、ほかに杏林大学医学部付属病院(三鷹市・1153床)、武蔵野赤十字病院(武蔵野市・611床)、東京慈恵会医科大学付属第三病院(狛江市・561床)があり、多摩総合とともに地域医療の中軸をなしています。

 人口密集地であるため、患者を奪い合うようなことはなさそうです。しかし、総合病院・大学病院だからといって、全方位展開をしていたのでは経営が成り立ちません。いまや東京の病院はいずれも台所事情が苦しくなっており、選択と集中を迫られているのです。

〈表〉は2010年と2015年の、消化器・循環器・乳房・目の手術件数(手術を受けた患者数)を集計したものです。この間、入院日数が短縮されたことや、高齢者の増加に伴って患者が増えたことなどから、ほとんどの分野で手術件数が増加しています。しかし、よく見ると病院間で違いがあることに気づきます。

■武蔵野赤十字はカテーテルにシフト

 武蔵野赤十字は2010年には、消化器でトップに立っていました。しかし、2015年までに100件以上も減らしています。それに対して他の3病院はいずれも700件前後も増やしました。ただ、循環器では武蔵野赤十字が大きく伸ばしており、ライバルたちを引き離しつつあります。カテーテルを使った治療を得意としています。また乳房では多摩総合が2倍以上の躍進を見せて、杏林からトップを奪取しました。とくに部分切除の件数では、東京都の4位に食い込む健闘を見せています。

 もっとも特徴的なのは眼科です。目の手術の代表は白内障の眼内レンズ挿入術。硝子体手術も増えています。糖尿病の合併症である黄斑症や増殖性網膜症の治療として行われます。

 杏林は以前から眼科が強かったのですが、平成11年に「アイセンター」を設置し、独走態勢を固めることに成功しました。比較的もうかる分野であるため、慈恵会第三病院も追随しています。その点、やはり民間病院のほうが動きが機敏です。一方、武蔵野赤十字は件数を大幅に減らしており、眼科手術からは事実上撤退しつつあるようです。

 病院といえども商売。周囲との競争により、絶えず変化しているわけです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。