天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

患者が改めて教えてくれたエビデンスに基づく手術の重要性

順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

「よかった手術」というのは、大規模データに基づいた、エビデンスにのっとった手術です。片や「どうなんだろう?」という手術は、少数の症例報告はあるものの、厳密にはエビデンスに基づいていないローカルルールで行われた手術のことです。かつては、「EBM」(evidence―based medicine)=「検証と根拠に基づいた医療」というものがそれほど認識されていませんでした。

 そうしたローカルルールによる手術を行ったケースの中で、いまもよく覚えている患者さんがいます。当時68歳の男性で、冠動脈が詰まった不安定狭心症と、右足の血管が詰まった閉塞性動脈硬化症を同時に起こしている患者さんです。一般的には、足の血管が詰まっている人は狭心症が出にくいのですが、その患者さんは同時に症状が表れていて、非常に逼迫した状況でした。

 心臓の冠動脈バイパス手術と、右足の動脈のバイパス手術が必要な状態で、当時の先輩医師からある治療法を勧められました。まず、長持ちすることが明らかな左内胸動脈と、“賞味期限”のある足の静脈を1本ずつグラフトとして使う2カ所の冠動脈バイパス手術を行い、同時に大動脈の付け根から長い人工血管を使ってそのまま体の前側を通し、足の動脈の詰まっていない部分までバイパスを作るという手術です。

2 / 4 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。