今年、例年にない増加傾向が見られるのが、RSウイルス感染症だ。どういう疾患か? 池袋大谷クリニックの大谷義夫院長(呼吸器・内科・アレルギー専門医)に話を聞いた。
2017年第31週(7月31日~8月6日)の速報データによると、全国でのRSウイルス感染症の報告数は4934件。前週の報告数3306件はすでに本格的な流行の段階であることを示していたが、それよりも50%近い増加だ。
報告数が最も多いのは、東京都で、その後に、神奈川県、大阪府、福岡県と大都市が続く。
■どういう症状が出るのか?
「呼吸器系の疾患で、4~5日間の潜伏期を経て、鼻水など上気道の症状から、咳を主にした下気道の症状に移ります。通常、見た感じでは、RSウイルス感染症と風邪の違いはわかりません」
本来は、9月くらいから流行が始まるが、今年はスタートが早い。
■重症化するのか?
要注意なのは、生後6カ月くらいまでの乳幼児。RSウイルス感染症の症状は、上気道炎(鼻水など)、気管支炎、細気管支炎、肺炎の4つに大別される。細気管支炎は、乳幼児がかかると重篤な症状に陥る気管支炎だ。
「乳幼児は肺が脆弱で、免疫力が弱いので、呼吸不全から低酸素血症を起こし、命に関わります。不整脈、脳炎などの報告例もあります」
高齢者で、特に心臓や肺に疾患を抱える場合も、やはり注意が必要。
「RSウイルス感染症で肺炎になる場合もありますし、RSウイルス感染症は治ったとしても、異物除去の役割を担う気道の繊毛がダメージを受け、肺炎球菌など2次感染を起こすことがあるのです」
乳幼児と高齢者以外は風邪症状で済む。ただし、喘息がある人は、喘息が重症化する恐れがある。
■病院に行くべき?
前述の通り、見ただけでは風邪との区別がつかない。
「もし、ゼーゼーという呼吸をしていて苦しそうだったり、呼吸の回数が多いようなら、病院へ行くべき。咳が苦しそう、いつまでも症状が改善されない時も病院へ」
熱は出る場合とそうでない場合があり、熱が低いからといって必ずしも「重症ではない」という判断にはならない。
■治療は?
有効な治療法は現段階ではない。対症療法になる。
「呼吸不全で低酸素血症を起こしていれば酸素の投与、必要に応じて点滴や痰の除去を行い、ウイルスが免疫力で死滅するのを待ちます」
■予防できるのか?
RSウイルスは飛沫感染や接触感染でうつり、感染力は強い。しかし、「マスクでくしゃみや咳の飛沫がかからないようにする」「うがい、手洗いでウイルスが口などから入らないようにする」といった方法で身を守れる。
「乳幼児、高齢者にうつさないようにすることが肝心。風邪をひいたら、RSウイルス感染症であることも考慮に入れ、マスク、うがい、手洗いを徹底してください」
なお、これからの時期で気をつけたい呼吸器疾患としてRSウイルス感染症と並んで大谷院長が挙げるのが、マイコプラズマ肺炎だ。
マイコプラズマという菌に感染し、気管支炎や肺炎を発症する。免疫力が強いほど重篤化するため、成人でも肺炎に至り、命の危険がある。
「早期に発見し、抗生物質を投与すれば重篤化を防げます。いつもと違う咳、呼吸困難、倦怠感などがあれば、すぐに呼吸器内科を受診してください。喘息の人ほど注意が必要です」