がんと向き合い生きていく

大丈夫にみえた患者さんが「おかしい」と連絡が入った

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 翌朝、病棟の看護師さんから「Yさんがおかしい」と電話がかかってきました。Yさんは、朝早くから自宅へ電話して「家の換気扇が汚れているから拭きなさい」「トイレが汚い。すぐ掃除をしなさい」と、奥さんに指示しているというのです。

 私が病室に行くと、Yさんの表情は昨日とはまったく違い、とても硬くなっていました。

 さらに、奥さんに対して怒る言葉がたくさん聞かれました。

 私は「Yさんは『自分は大丈夫』と口にしていたものの、実際は強い心理的ストレスを受けていて、その精神状態の表れではないか」と心配になりました。

 私はすぐに精神科医に相談し、診察してもらうことにしました。精神科医の診断は「がん告知の心理的原因よりも、手術後の譫妄だろう」とのことで、精神安定剤が処方されました。「譫妄」とは、身体的な異常(手術後では1~3日後に起こる)や薬剤によって引き起こされる脳機能不全で、周囲の状況が把握できない、幻覚、興奮などの症状が表れます。多くは一時的な症状です。

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佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。