翌朝、病棟の看護師さんから「Yさんがおかしい」と電話がかかってきました。Yさんは、朝早くから自宅へ電話して「家の換気扇が汚れているから拭きなさい」「トイレが汚い。すぐ掃除をしなさい」と、奥さんに指示しているというのです。
私が病室に行くと、Yさんの表情は昨日とはまったく違い、とても硬くなっていました。
さらに、奥さんに対して怒る言葉がたくさん聞かれました。
私は「Yさんは『自分は大丈夫』と口にしていたものの、実際は強い心理的ストレスを受けていて、その精神状態の表れではないか」と心配になりました。
私はすぐに精神科医に相談し、診察してもらうことにしました。精神科医の診断は「がん告知の心理的原因よりも、手術後の譫妄だろう」とのことで、精神安定剤が処方されました。「譫妄」とは、身体的な異常(手術後では1~3日後に起こる)や薬剤によって引き起こされる脳機能不全で、周囲の状況が把握できない、幻覚、興奮などの症状が表れます。多くは一時的な症状です。
がんと向き合い生きていく