がんと向き合い生きていく

大丈夫にみえた患者さんが「おかしい」と連絡が入った

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 私は、もう2~3日、術後の譫妄が表れないかどうかを見極めてから説明すべきだったと反省しました。

 精神科医の処方もあり、幸いYさんは数日で病状は好転しました。10日後に再度、病気の説明をしましたが、Yさんは前回と同様に納得され、治療を受けられることになりました。

 それにしても、Yさんにとっては「がんは手が付けられない状態だった」と告げられたことは、どう考えても大変なショックだったのは間違いありません。

 精神科医は手術後の譫妄だと言いますが、前日の私の話の影響がなかったとは言い切れないと思うのです。

 その後、淡々と治療を受けられるYさんに、私は「つらい時は遠慮なくつらいと言っていただいて構いませんよ」と繰り返しました。Yさんは説明に一つ一つ納得され、奥さんを怒ることもなく、感謝しながら、最期までYさんらしく生きられたように思います。

 たとえ気丈に見えても、患者さんが受けるショックは計り知れない。私の苦い経験です。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。