高齢者の「てんかん」は医師も本人も周囲も気づかない

働き盛りで発症することも(写真はイメージ)
働き盛りで発症することも(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 家族や同僚に、ボーッとして反応がない様子が時々見られたら、「てんかん」かもしれない。

 てんかんは、脳の神経細胞が一時的に興奮状態になる疾患。それによってさまざまな症状が表れる。よく知られるのが、突然起こる「意識を失う」「けいれん」「崩れるように倒れる」などだ。

「ところが、これらとは違うけいれんがあり、注意が必要なのです」

 こう指摘するのが、朝霞台中央総合病院脳卒中・てんかんセンター長の久保田有一医師。一般的に「高齢者のてんかん」と呼ばれるてんかんだ。

 高齢者のてんかんには、脳卒中、脳腫瘍、頭部の外傷などで起こるものと、加齢による脳神経の変性などで起こるものとがある。久保田医師が注意を促すのは、後者だ。

 高齢者のてんかんは、症状が非常に地味で、発作頻度が、あっても月1回程度。症状が表れる時間は1~2分と短い。患者の発作時の様子を写した映像を見せてもらうと「症状が地味」というのがよくわかる。

 脳波モニターでは明らかな脳波異常が見られるが、患者の様子は脳波が正常な時と一見変わらない。久保田医師が指さしたのは、足でトントントンとリズムを取るような動き。また、ほかの患者の映像では、イライラしている様子、横になってテレビを見ている様子が映し出された。いずれも、高齢者のてんかんによる症状だという。

 突然倒れたりすれば慌てて救急車を呼ぶだろうが、地味な症状ゆえに、同居している家族でも気づかない。

「この時たまたま話しかけたりすれば、『なにか変だ』と感じるかもしれません。目が一点を見つめたままで、ボーッとして反応がないからです。1~2分すると普段通りの様子に戻り、本人は何も覚えていません」

■50代から発症率が上昇

 高齢者のてんかんは、MRIやCTなどの画像検査ではわからない。症状を本人は覚えていないので、自ら病院に行こうともしない。診断・治療のきっかけに結びつくのが、家族や周囲にいる人、介護者などが感じる「なにか変」だが、高齢者のてんかんに対する知識を持っていなければ、「年のせい」「認知症の表れ」などと思うだろう。

「実際、放置されているケースや認知症と誤診されているケースはかなり多いと考えています」

 てんかんは、治療をしなければ症状が悪化する上、突然死のリスクがある。さらに、1~2分とはいえ意識がはっきりしなくなるため、交通事故や転倒事故なども起こしやすくなる。

 久保田医師が「高齢者のてんかん」と診断した患者も、事故を起こして整形外科を受診し、整形外科医が念のためと、久保田医師を紹介。受診してきた人が大半だ。

「死者やけが人が出るような大事故になる前に、いかに早く『なにか変』に気がつくか。そう感じたらてんかんセンターを受診すべき。てんかんの専門医でなくては見逃されるかもしれません」

 朝霞台病院では、疑わしき人がきたら外来で脳波検査をし、確定診断として、入院して1週間の脳波を取る「長時間ビデオ脳波モニタリング」を行う。

「高齢者のてんかんでは脳波の乱れがはっきりと表れないため、長時間の脳波モニタリングが理想的なのです」

 治療は薬の経口投与。従来より少ない量で症状をぴたりと抑えられる。

 高齢者のてんかんというと、65歳以上を想像するかもしれない。

「50代から発症率が上昇していきます。加齢が原因なので、だれにでも可能性がある。自分は大丈夫と思わないことです」

関連記事