決算書でわかる有名病院のフトコロ事情

移転後の愛育会の決算 人件費率は高めで赤字だが安泰

社会福祉法人恩賜財団母子愛育会の事業活動計算書(抜粋)
社会福祉法人恩賜財団母子愛育会の事業活動計算書(抜粋)/(C)日刊ゲンダイ

 高い出産費用にもかかわらず、大勢の妊婦を集めることに成功している愛育病院。さぞや儲かっていると思いきや、数字的にはかなり厳しそうです。

 経営母体の社会福祉法人恩賜財団母子愛育会の事業活動計算書(損益計算書に相当)によれば、2015年度は5.3億円の赤字、2014年度は21.2億円の赤字に終わっています。

 愛育会は幼稚園なども経営していますが、本業の収益(55.5億円)の大半を医療(52.0億円)で稼ぎ出しています。決算書の数字は、そのまま愛育病院・クリニックの数字と見なして構わないでしょう。

 一方、本業にかかった費用は59.6億円、そのうち30.9億円を人件費が占めています。人件費率(本業収益に対する人件費の比率)は55.7%。厚生労働省等の調査によれば、2015年度の一般病院の平均は52.4%。医師数、看護師数などは公表されていないため、他病院よりも給与がいいのか、それとも医師・看護師等を多く雇っているためかは、判断できません。しかし結果として、本業だけで4.1億円の赤字を計上しました。

 とはいえ赤字の裏には、それなりの仕掛けがあるのです。社会福祉法人の施設等の建設費・整備費の大半は、法律により国や都の補助金で賄われることになっているのです。愛育会も病院移転等で多額の補助金をもらったはずです。

 建物等は経年劣化があるため「減価償却費」を費用として計上する必要があります。ただし、補助金で得た施設の減価償却費は「国庫補助金等特別積立金」と呼ばれる、別立ての項目で計上する決まりになっています。その額が2014年度に30.4億円、2015年度にも2.5億円ありました。

■手元キャッシュは潤沢

 この金額はあくまでも帳簿上の数字であって、費用として実際に外に出ていくものではありません。したがって2014年度決算は、実質的には差し引き9.2億円の黒字、2015年度は2.8億円の赤字だったことになるのです。手元キャッシュも潤沢で、愛育病院は当面は安泰と言えそうです。

 しかし、長期的には少子化の影響で出生数は減る一方。「集客数」を減らさずに、さらなるブランド化で「客単価」を上げるなどの対策を講じない限り、早晩経営が苦しくなっていくはずです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。