天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

30年後も問題ないのはエビデンスにのっとった手術の賜物

順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 前回、狭心症に対する冠動脈バイパス手術と、閉塞性動脈硬化症に対する右足動脈の非解剖学的バイパス手術を同時に行った患者さんのお話をしました。手術から12年後に大がかりな足の再手術が必要な状況になり、エビデンスにのっとった手術の重要性を改めて教えてくれた患者さんです。

 逆の意味で、「EBM」(evidence―based medicine)=「検証と根拠に基づいた医療」の重要性を再認識させてくれた患者さんもいます。88年、私がまだ亀田総合病院でレジデントだった頃の患者さんです。

 当時58歳の男性で、足の血管が腹部大動脈領域で詰まってしまい、足の血行が急激に悪くなって緊急で運ばれてきました。

 そのとき、上司だった医師が不在だったため、私を含めた若手医師で手術を行いました。その際、手術の“教科書”に掲載されている通りに開腹して、腹部大動脈の詰まっていない部分から、足の動脈の詰まっていない部分にバイパスをつくりました。本来の血液の流れを変えない解剖学的なバイパス手術です。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。