子供の突然死の主要原因…「心臓震とう」が死を招く

「すぐには倒れない」ため対応が遅れがち(写真はイメージ)
「すぐには倒れない」ため対応が遅れがち(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 スポーツの秋の到来だが、子供が運動中に突然倒れたらどうすべき? 救命救急医療に長く関わり、スポーツドクターでもある「恵泉クリニック」顧問の太田祥一医師に話を聞いた。

 8月初め、野球部マネジャーの女子生徒が練習場から学校までの約3・5キロを走った後に倒れた。呼吸があるように見えたため、監督らはAED(自動体外式除細動器)を使わずに救急車の到着を待った。

 ところが生徒は、低酸素脳症で死亡。医師は、心室細動が原因と家族に説明した。このことから、「AEDを使っていれば助かったのでは」という声も出ている。

「このような場合には、とっさの判断が難しい。医師でも迷う場合があるのではないか」

 そう太田医師が指摘するのは、①心停止状態でもあごが動くなど呼吸をしているように見えることがある(死戦期呼吸)②AEDのパッドは直接皮膚に貼り、躊躇なく行う必要があるが、確信を持てない状況で一般市民が公共の場でAED使用や胸骨圧迫を行いづらい――という現実があるからだ。AEDの知識は浸透すべきだが、それだけではカバーできない“壁”もある。

■ボールが胸に当たった後倒れたら深刻

 知っておくべきなのは、呼びかけても反応がなく、普段通りの呼吸をしていなければ、まずは胸骨圧迫を始める、ということ。

 特に深刻なのは、「ボールが胸に当たった後、倒れた」場合。すぐさま駆け付け、胸骨圧迫を行い、AEDが到着したらそれを使用。同時に救急車も呼ぶ。

「スポーツ中に胸の真ん中から左側に衝撃が加わると『心臓震とう』を起こす可能性があります。突然死の原因のひとつで、小児に多い」

 胸への衝撃で心室細動などの不整脈を起こし、心停止となる。小児が要注意なのは、胸の筋肉や骨が未熟で衝撃が心臓に伝わりやすいからだ。

 衝撃は、必ずしも強いものとは限らない。心臓震とうを起こした胸部への衝撃の原因を調べたデータによると、最も多いのが野球のボールで、続いて、フットサルのボール、空手、ソフトボールのボール、柔道の投げ技による背部打撲。いろいろな力が加わって起こるといわれている。

「心臓震とうを起こしても、すぐに倒れません。脳に酸素を含む血液が残っているので、胸への衝撃のあと数歩歩いたり、ボールを拾いに行ったりし、それから意識を失って倒れる。この場合、周囲は『どうしたんだろう』と見てしまいがちですが、すぐに動きだしてほしい」

 心臓震とうは、適切な対処をしなければ死に至る。しかし、胸骨圧迫やAEDの使用で、命が助かる。

 救急車を呼んだ後、見落としがちなのが、現場への誘導だ。

「学校やショッピングモールなどでは、救急車が到着してから傷病者を探し当てるのに時間がかかります。何人か人がいるなら、救急車の到着を入り口で待ち、速やかに現場まで誘導するのが理想的です」

 心臓震とうでは、意識がない。一方、意識がある時は、救急車を呼ぶべきか?

「呼吸がおかしい、なにか様子が変なところがあるようなら救急車を」

 自治体によっては、救急車が必要かどうか、まず相談に乗ってくれる救急相談センターもある。番号は「♯7119」なので、こちらにかけるのも手だ。

 ボールが頭に当たるなどして、その時何ともなかったが、しばらくして頭痛などが起こってきた時も、「♯7119」が役立つ。

関連記事