決算書でわかる有名病院のフトコロ事情

病床利用率75%なのに…慶応病院はなぜ収益力が高いのか

収入多い科目の周辺エリアシェアが高い
収入多い科目の周辺エリアシェアが高い(C)日刊ゲンダイ

 慶応義塾大学病院(慶応病院)には評判の名医が揃っています。しかも職員の口が固いと定評があり、多くの政治家や芸能人が利用するセレブ病院です。特定機能病院として、高度な医療の開発と提供の役割も担っています。大学付属ですから、病院単独の決算書はありません。大学全体の決算書や病院のホームページから、主な数字を拾って〈表〉にしました。

 病床数は1044床、東京都で第6位(精神病院等を除く)の規模を誇っています。病院の売り上げ(医業収入)は563.6億円(2016年度)。都立病院で最大規模を誇る駒込病院(801床、241.9億円)と比べると、驚くほど収益力が高いことが分かります。ただし病床利用率は75.2%に過ぎません(ちなみに駒込病院は79.1%)。

 ところが入院の患者単価が高いのです。計算すると、1人1日当たりの単価が、なんと10万円近くになります。これには差額ベッド料も含まれています。個室料金は1日当たり約2万円から8万6400円。ただ料金ごとの室数は公開されていません。

 医療費の高い患者も多く受け入れています。日本病院会などの調査によれば、入院1日当たりの収入が高いのは、心臓血管外科(全国平均で約14万円)、呼吸器外科(約9.2万円)、循環器内科(約8.9万円)、眼科(約8.6万円)など。慶応病院はこれらの科目で周辺エリア内のシェア1位ないし2位を獲得しています。また他の科目でも、手術等が必要な患者を、積極的に受け入れています。

■重症患者を積極的に受け入れ

 外来患者の多さも目を引きます(1日当たり3000人超)。駒込病院(約1200人)も外来患者が多いほうですが、それと比べても際立って多いことが分かります。しかも単価は全科平均で約3万円と、かなり高額です。

 全国平均で単価が高いのは外科(約2.4万円)、呼吸器内科(2.2万円)、放射線科(2.2万円)、内科(2.1万円)など。しかし平均的な患者ばかりを受け入れていたのでは、3万円という単価には到底届きません。やはり各科とも、重症患者を中心に受け入れていると思われます。

 もちろん大学病院・特定機能病院ですから、重症患者が多いのは当たりまえ。それを徹底しているからこそ、高い収益性が確保できているのでしょう。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。