くしゃみでちょい漏れ…腹圧性尿失禁の治療に変化あり

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 40歳以上の女性の3人に1人が経験しているともいわれる尿失禁。あなたの妻も悩んでいるかもしれない。この治療に対する考え方に最近変化が出てきている。

 話を聞いたのは、東京女子医大東医療センター骨盤底機能再建診療部・巴ひかる教授だ。

 尿失禁はいくつかのタイプがある。全体の約50%を占めるのが、腹圧性尿失禁。くしゃみなど腹部に圧力がかかった時、尿意とは関係なしに漏らしてしまう。次いで多いのが切迫性尿失禁で、全体の20%。膀胱が勝手に収縮する過活動膀胱が主な原因で、突然尿意を感じ、トイレに間に合わず漏らしてしまう。2つを合併する混合性尿失禁に悩む人は30%。

 治療に対する考え方に変化が出てきているのが、腹圧性尿失禁だ。

「最も確実な効果をもたらすのが手術ですが、TVT手術、TOT手術という2通りの方法がある中で、『TOT手術の方が安全性が高く良い』という考えに対し、世界的に、別の見方が出てきたのです」

 TVT手術は、下腹部の恥骨上左右2カ所と膣を1センチほど切開し、そこから通したメッシュ状のテープで尿道を支えて尿道がグラグラするのを抑え、尿漏れを防ぐ。わが国でも1999年から保険適用となり、画期的な治療法と注目を集めるようになった。ところがTVT手術は、確率はごく低いものの腸管や血管を損傷するなど合併症のリスクがある。より安全な術式として開発されたのが、左右の太ももの付け根と膣を切開してテープを通すTOT手術。国内では2005年ごろから始まった。

「TVT手術には二の足を踏んでいた医師も、安全性の高いTOT手術は取り入れるようになり、TOT手術が一気に広がっていきました」

 ただ、腹圧性尿失禁の人すべてにTOT手術が向いているわけではない。腹圧性尿失禁は、尿道がグラグラする尿道過可動と、尿道括約筋の働きが低下した尿道括約筋不全の両方が組み合わさって起こる。

「尿道過可動がそれほどではなく、尿道括約筋不全がメーンの人には、TVT手術の方が治療成績が良い。だから、こういった患者さんにはTVT手術を、それ以外の人にはTOT手術を行うようになったのです」

■若い人、スポーツ経験者にはTVT手術

 しかし、最近台頭してきた考えは、「すべての腹圧性尿失禁に、TVT手術が向いているのではないか」。なぜなら、海外の研究発表で、TOT手術の方が術後何年か経ってから追加の手術治療を必要とした人が多かったという統計結果があるからだ。

「『追加手術が必要』というのはつまり、再発を意味します」

 TOT手術よりTVT手術の方が良い、とはっきりとした結論が出たわけではない。最も大きなネックになっているのは、TVT手術には合併症のリスクがあることだ。腸管損傷などを起こせばせっかく入れたテープを取り除かなければならないだけでなく、最悪の場合、人工肛門で半年ほど生活しなければならなくなる。めったにないこととはいえ、良性の疾患でこの合併症は決して軽視できない。

「比較的若い人、スポーツをしたい人などはTVT手術の方が良いかもしれません。私はTVT、TOT両手術のメリット、デメリットを伝えたうえで、最終的には患者さんに決定していただくようにしています」

 手術を受けるなら、双方の術式の経験を数多く積んでいる泌尿器科医に意見を聞いた方がいいかもしれない。

■異なる治療法も

 腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁とでは治療法が異なる。手術の選択肢もある腹圧性尿失禁に対し、切迫性尿失禁は生活指導と薬物治療が中心。混合性尿失禁では、症状が強く出ている方から治療を始める。

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