天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

大動脈二尖弁の再手術で考えさせられたこと

順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 ただ近年は、生体弁を勧めるケースが増えてきました。「TAVI」(経カテーテル大動脈弁留置術)という血管内治療が登場したことで、将来的に生体弁が劣化しても、再手術せずに新たな生体弁を留置することが可能になったからです。しかし、だからといって安易に生体弁を選択すればいいのかといえば、そうではありません。

■安易に生体弁を選択するだけではいけない

 先日、28歳の男性患者の弁を交換する手術を行いました。その患者さんは13歳の時に他の病院で二尖弁による大動脈弁逆流で生体弁に交換する手術を受けていました。15年経ってその生体弁が壊れてしまい、再手術が必要になったのです。

 子供の場合、交換した生体弁の“使用期限”は10年程度といわれていますから、よく持った方だといえます。ただ、1回目の手術では「なぜ、こんなことをやったのだろう?」と思わせるような処置が行われていました。弁の交換と同時に、大動脈を切開してパッチを当て、大動脈を広げる治療が施されていたのです。当時、患者さんがまだ子供だったことで、十分な大きさの生体弁に交換できなかったためにそうした処置が行われたのでしょう。これが“余計なこと”でした。その大動脈を広げる処置が行われた部分に細菌が取り付いて感染性心内膜炎を起こし、生体弁を破壊してしまったのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。