天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

大動脈二尖弁の再手術で考えさせられたこと

順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 1回目の手術の影響でやりづらさはあったものの、無事に新しい生体弁に交換することができて、心機能も改善しました。ただ、「将来的に生体弁が劣化してもTAVIを受けることができるから」という理由だけで、安易に生体弁を選択するケースについては、あらためて考えてみる必要があると感じています。

 生体弁に交換した場合、生体弁そのものに細菌が巣くって感染性心内膜炎を起こす可能性が一定の割合で存在します。そうなると、TAVIの対象ではなくなってしまうため、結局は再手術をして弁を交換し直さなければなりません。現在、将来的なTAVIを考慮して生体弁を勧めているのは、「感染性心内膜炎が起こらない」ことを前提にしています。しかし、弁を交換して感染性心内膜炎を起こす可能性はどの患者さんにもあるのです。

 最近は機械弁の性能もよくなっているので、抗凝固薬さえ飲めばトラブルを起こすことなく30~40年は持つケースもありえます。将来、起こりうるあらゆる状況を考慮して、患者さんにしっかりとインフォームドコンセントを行い、術式を考えて選択しなければいけない。そう、あらためて感じています。

3 / 3 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。