気鋭の医師 注目の医療

救急医療の現場に新風を吹き込んだ草分け的存在

川越救急クリニックの上原淳院長
川越救急クリニックの上原淳院長(C)日刊ゲンダイ
川越救急クリニック(埼玉県川越市)上原淳院長

 夜間の救急患者を専門に受け入れる「救急クリニック」が少しずつだが、全国(現在4カ所)に増えつつある。その救急医療の現場に新風を吹き込んだ草分け的存在が上原淳院長だ。

 2010年に国内初となる夜間の1次・2次救急に特化した同院を開業。外来の診療時間は16~22時(金曜だけ17時~)、時間外診療と救急搬送は朝9時まで受け入れている。決まった休診日はなく、ほぼ年中無休。上原院長が言う。

「救急クリニックの必要性はまだまだ全国であります。大都市では軽症の救急搬送が多く、休日夜間診療所は深夜はやっていないので、3次救急の病院に集中して医師が疲弊している。地方では1次から3次救急まで、受け入れる施設自体が少ないのが現状です」

 同院を開業した理由は前者。当時、近くにある埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センターの医局長を務めていたが、このままでは3次救急の機能が果たせないと奮起した。埼玉県もそれなりに対策を講じているが、それでも医師数、看護師数、ベッド数が全国最低レベルであることは変わらない。

「近年、県は空きベッドなどの情報がひと目で分かるタブレット端末を県内すべての救急車に導入しました。これは13年に久喜市の75歳男性が県内外の25病院から計36回、救急受け入れを断られ死亡したケースがあったからです。このIT化で、以前は30~40回断られて当院に受け入れ要請が来ることが多かったのですが、いまは10回以内に連絡が来ることが多くなりました」

 同院の救急車受け入れ台数は年間1500~1600台。県の救急指定病院(3次救急含め)の平均が1病院当たり年間700台程度というから、倍以上の台数を受け入れている。医療スタッフは、常勤医師2人(非常勤4人)、常勤看護師5人(非常勤5人)、非常勤の救急救命士5人という体制。検査機器は、CT、レントゲン、内視鏡(胃と鼻の領域)、エコー、心電図など、救急に必要な最低限の設備はある。また、翌朝まで様子をみたい患者のために使うベッドも4床ある。

「私たちが求められているのは、緊急度を判断して必要であれば、すぐ入院治療の設備が整っている2次救急や3次救急の施設へ送ることです。実際、救急搬送を含めて当院に来る患者さんの9割は薬の処方などで対応できる軽症です」

■当初は“変わり者”とされるも…

 一方で、大病院の見落としを救うこともある。隣の市の10歳男児が柔道大会に出場し、背中を強打。帰宅しても痛いので近くの大学病院を受診したが、診断は打撲。しかし、夜中になっても痛みは引かず、たまらず同院を受診。CTとエコーで調べたところ脾臓の損傷が判明。埼玉医科大総合医療センターに送り、緊急手術した。放置していたら死亡していたかもしれないケースだ。

 当初は“変わり者”とされた上原院長だが、いまでは全国から「私も救急クリニックを始めたい」という熱血医師の問い合わせや見学が多い。自分が苦労をした経験から2年前に「NPO法人日本救急クリニック協会」を設立。開院や運営のノウハウなどを共有できるようにサポートしている。

▽東京都出身。1989年産業医科大学医学部卒後、同大麻酔科に入局。福岡市立こども病院・感染症センター、九州厚生年金病院などを経て、01年埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センター医局長・講師。10年開院。

〈所属学会〉 日本救急医学会、日本麻酔科学会、日本集中治療医学会など。