事故相次ぐ「無痛分娩」は何が問題か 麻酔専門家に聞いた

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 麻酔で出産時の痛みを和らげる「無痛分娩」が改めて注目を集めている。「東京マザーズクリニック」(世田谷区)の柏木邦友医師(麻酔科指導医・標榜医)に話を聞いた。

 今年に入り無痛分娩の事故が相次いで報告されたことから、日本産婦人科医会は調査を開始。8月末には厚労省の研究班が初会合を開き、無痛分娩が増加傾向にあり、2016年度は全体の6.1%だったことなどを報告。リスク評価や安全管理体制の構築に関する提言をまとめるとした。

 一連の流れから「無痛分娩=危険」と思うかもしれない。しかし、無痛分娩で死亡率が高まるとの調査結果はなく、無痛分娩を積極的に勧めていない医師も、無痛分娩自体は否定していない。

「無痛分娩は医療行為なので、ほかの医療行為と同様に、合併症や副作用の可能性はゼロではありません。しかし、ゼロに近づけるための対処策はいくつもあり、当クリニックでも無痛分娩の事故はゼロ。しかし、その対処策が不十分な医療機関が多く、それが問題なのです」

 無痛分娩は一般的に「硬膜外麻酔」で行われる。刺した針を通して管を硬膜外腔に入れ、管だけを残して針を抜き、管から麻酔薬を注入する方法だ。この時、管が間違った場所に刺さると死に至ることがある。

「そうならないように、少量の麻酔薬でテストを行い、管の位置を確認します。間違った場所であれば足のしびれや動かないなどの症状が出るので、異変を見逃さない。不適切な場所に刺さっている恐れがあれば、すぐに管を抜きます」

 15年に無痛分娩で出産し、その後意識を失い今年5月に亡くなった女性は、麻酔直後、足に力が入らなくなり異変を訴えていた。しかし医師は外来診察でその場にいなかったため、一気に状態が悪化。医師が異変に速やかに対応していたら、全く違う展開になっていたかもしれない。

■無痛分娩にガイドラインはなし

 硬膜外麻酔は全身麻酔と違い、麻酔科医以外でも行える。だから麻酔科医を置いていない産科は珍しくないが、急変に対応するには麻酔科医がいることが理想だ。

「そうでないのなら、医師、看護師、助産師らが救急対応の資格を持ち、適切な処置を行えるようにすべき。ところが実際は、人員不足や、無痛分娩に対する認識不足などのさまざまな理由から、それらがおざなりになっているのです」

 無痛分娩には、教科書のような存在であるガイドラインがない。だからこそ、徹底した安全対策が重要になる。

 無痛分娩の豊富な経験と適切な知識を持つ医療スタッフがいる医療機関であれば、無痛分娩はメリットが非常に多い。痛みがないため、脳内出血やくも膜下出血を招く妊婦の血圧上昇を避けられる。脳内出血、くも膜下出血は妊婦の死因の3位と4位。結果的に、出産による死亡のリスクを下げることができる。

 痛みは呼吸回数を減らすが、無痛分娩であれば、母子ともに安定した酸素を提供できる。また、1~2分を競うほど緊急に帝王切開へ移行しなければならない事態が起こった場合、硬膜外麻酔をすでにしているので、速やかに行える。

 もし、無痛分娩を考えるなら、医師や看護師などの医療スタッフの麻酔分娩に対する知識、そして、無痛分娩の件数などを確認すべき。麻酔科医の間では、「1人の医師につき硬膜外麻酔月10件が確かな技術を維持できる指標」という見方もある。ひとつの目安にしてもいいかもしれない。

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