がんと向き合い生きていく

「余命1カ月」と記された書類にサインをさせられた患者

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 帰りの車の中で、「余命1カ月にサインさせるなんて……」と怒っていた奥さんに対し、Fさんは「もう、あの医者にはかからないのだから」と返したといいます。

 医師が「余命1カ月」を淡々と患者に告げる。患者は「余命1カ月」と記された書面にサインする。そんな時代になったのでしょうか? 奥さんからその書面を見せられた私は、「『余命1カ月』にサインしたFさんは、その後の一日一日をどう過ごすのだろう。食事が普段の半分ほどしか食べられなくなっているのに『自分らしい日々を送る』なんて……。本当にそのようなことができるのだろうか」と思いました。Fさんは「夜は睡眠剤をもらっています」と寂しそうに笑っていました。

■患者と医師の関係が希薄になっているのでは

 30年前まで、われわれが行ってきた「患者にがんを隠し、最後まで死を隠した」医療とは天と地ほどの差があるように感じます。あの当時、医師も家族も、患者本人に対して「がんを隠すこと、死を隠すことが最大限よかれと思って、それが最大の愛と思いやり」であると信じていました。私たち医師は病気が悪化しても死を話さず、「大丈夫、大丈夫」と言い続けてきました。

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佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。