医者も知らない医学の新常識

「がん幹細胞研究」でがんは怖くなくなるのか?

 がんの治療は進歩を続けています。それでも進行したがんを完全に治すことは、そう簡単なことではありません。一度は全てのがんを切除したと思っていても、再発することがまれではないのです。

 たった1個のがん細胞でも残っていると、そこからがんが成長し再発することがあるからです。がんの組織の中に少しだけ混ざっている、1個でもそこからがんがつくれる細胞を、「がん幹細胞」と呼んでいます。

 全てのがんに幹細胞があるかどうかは分かっていませんが、たとえば大腸がんにはがん幹細胞があって、特別な遺伝子を持っているかどうかで、それを他のがん細胞と区別できることが分かっています。

 それでは、がん幹細胞だけを殺すような治療があれば、他のがん細胞は生きていても、がんは治るのではないでしょうか?

 今年のネイチャーという科学の専門誌にその実験結果が発表されています。特殊な方法でがん幹細胞を全て殺すという実験をしたところ、その周辺の普通のがん細胞が、がん幹細胞に変化して、がんはやはり再発することが分かりました。ただ、転移したがんではそうしたことは起こらず、がん幹細胞がいったん死んでしまうと、もうそのがんが大きくなることはなかったのです。このようにがんを治すことは一筋縄ではいかないのですが、この研究がもっと進めば、手術をしなくてもがんが治る時代になるかも知れません。

石原藤樹

信州大学医学部医学会大学院卒。同大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修を経て、1998年より「六号通り診療所」所長を務めた。日本プライマリ・ケア学会会員。日本医師会認定産業医・同認定スポーツ医。糖尿病協会療養指導医。