初の診断キット発売 「潰瘍性大腸炎」治療の何が変わる?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 最近、潰瘍性大腸炎の体外診断用の試薬キット「カルプロテクチン」が日本で初めて保険適用になった。東京慈恵会医科大学消化器・肝臓内科主任教授の猿田雅之医師に治療の最前線を聞いた。 

 潰瘍性大腸炎は、大腸粘膜に慢性の炎症や潰瘍を発生する原因不明の疾患で、根本的治療法は確立されていない。症状を寛解(症状が落ち着いて安定した状態)にもっていき、長期間維持することが現在の治療目標だ。

「患者さんの便に含まれるカルプロテクチンという、白血球が分泌するタンパク質の濃度を調べることで、腸管内の慢性炎症の程度を数値で表すことができます」

 これによって変わるのが、次の2点だ。

①経過観察が簡便になる

 潰瘍性大腸炎の6~7割は軽~中等症。その中の多くがメサラジンという「5―ASA製剤」で腸管の炎症を抑えることができ、寛解の維持もできる。

 潰瘍性大腸炎の治療薬は複数あり、寛解導入や維持が困難な場合には、2剤、3剤と組み合わせることになる。

「このメサラジンは良い薬ですが、場合により1日に9錠も服用しなければなりません。効果不十分であれば、座剤なども使用しますので投薬量はもっと増えます。これらは症状を消失させ良い状態を維持する薬剤であり、根本的治療法ではないため、ずっと服用を続けなくてはなりません」

 内視鏡検査で腸管の炎症が治まっているのを確認できれば薬の量を減らすこともできるが、内視鏡検査は事前に大量の下剤を飲みスコープを挿入する検査のため患者の負担が大きい。

 ところが今回の試薬キットは、便さえ取ればOK。便中のカルプロテクチン濃度という客観的な数値が炎症の重症度を表す。精度は内視鏡検査に決して劣らない。炎症の消退が確認されれば、薬の減量も可能となる。 

「内視鏡検査は多くてもせいぜい1年に1、2回程度ですが、試薬キットなら1年に数回行え、簡便に評価できます。積極的に薬の減量を検討できるかもしれません」

 試薬キットでは炎症の悪化も確認でき、薬の飲み忘れをチェックしたり、薬の増量を検討するのにも役立つ。

■痛みなく精度は従来検査に劣らない

②診断が簡単になる

 潰瘍性大腸炎の症状は、繰り返して起こる下痢や血便。慢性の下痢や血便はほかの病気でも見られることがあり、特に下痢だけの場合は、過敏性腸症候群(IBS)が原因の多くを占める。

「カルプロテクチン濃度を見れば、下痢や血便が炎症によるものか否かがわかります。IBSなら炎症は認めません。最初に試薬キットを用いることで、内視鏡検査が必要な人と不要な人に分けられると思います」

 やはり、患者の負担軽減につながる。

 潰瘍性大腸炎の診断・治療の変化はそれだけじゃない。前述の通り6~7割が「5―ASA製剤」で寛解を維持できる潰瘍性大腸炎だが、効かない場合、ステロイド、免疫調整薬、抗TNF―α抗体と効能の強い薬を使う。

 いずれも十分に効かなければ、手術で大腸を全て取り除く。

「抗TNF―α抗体が登場して以来、難治例でも薬で寛解を維持できるようになり、手術まで進む患者は減っているとの海外の報告があります。私の患者さんにも、薬の効きが悪く、何十年も苦しみ手術を検討していたのに、抗TNF―α抗体で劇的に良くなり手術を回避できた方もいます」

 抗TNF―α抗体は高額な薬のため、現在臨床研究では「炎症が完全に消えた後に薬を止めることが可能か?」についても検討されている。

 また、抗TNF―α抗体の効き目が不十分な患者には、違う作用機序の新薬がこの1~2年で数種類出る見込みだ。

「潰瘍性大腸炎の治療の選択肢は増えています。難病ではありますが、決して悲観する疾患ではありません。どうぞ主治医の先生とよく相談して下さい」

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